オープンソースのIT技術で世界をリードするレッドハットは、組織の経営と文化もオープンなことで知られる。CEOのジム・ホワイトハーストが、組織文化の構築で最初にやるべきことを示す。


 私たちが毎日のように耳にするビジネス流行語の1つに、「文化」がある。「我々の組織には、強い/革新的な/有害な文化がある」などと言われるが、人々はこの言葉を、実際にどんな意味で使っているのだろうか。

 私の考えでは、企業の文化は社内の人々のやり取りを見ていればわかる。文化とは学習によって習得される行動様式だ。事業運営の副産物ではなく、組織の表面を覆うカバーのようなものでもない。また、自分たちの行動によって企業文化をつくるのであって、その逆ではない。

 例を挙げよう。私はユナイテッド航空の取締役を務めている。取締役会議の最初の議題は、いつも同じだ。非常口はどこにあるか、階段にどうやって行くか、避難後の集合場所はどこか、である。なぜ毎回、会議の冒頭にそんな確認をわざわざ行うのだろうか。

 それは、ユナイテッド航空の文化が「安全」を基盤としているからだ。そして、その文化を育み強化する最もよい方法は、リーダー自身が範を示し、安全の重要性を行動で訴えることだからである。

 ユナイテッド航空の文化のもう1つの要素は、時間を無駄にしないことである。私は元来時間に几帳面なタイプだが、あるとき取締役会議に電話で接続するのが数秒遅れた。他の取締役たちは、私が接続する数分前にすでに会議を始めていた。早く始めるチャンスだったので、そうしたまでである。

 これらのエピソードを紹介したのは、文化はリーダーの行動に左右されるということを示したいからだ。しかし、これは既存の文化を変えることが非常に難しい理由でもある。

 この問題については、仲間の企業幹部たちからよく質問を受ける。文化を変えることが難しいのは、人の行動を変える必要があるからだ。長年にわたり特定の事業を特定の方法で営んできた会社の経営者にとって、これまでと違うやり方を全員に納得させるのは難しい。それは、社内のリーダーたち自身にも当てはまる。

 次のようなシナリオを考えてみよう。

 経営陣が、自社の文化をより「顧客中心」のものにすべきだと決意した。しかし、その後の経営会議では、どうすれば顧客体験を向上させられるかを議論する時間が含まれていない。彼らは実際に、どれほどの時間を現場で過ごし、顧客への訪問や電話対応をしているだろうか。幹部らが行動において顧客以外の何かを優先しているならば、従業員もそれに倣うのではないだろうか。

 文化の構築とは他者の行動を変えること――そう考えられがちだ。このため、自身がリーダーとしてどう振る舞うか、という点は見落とされやすい。しかし私は、組織全体に見習ってほしい行動をリーダーたち自身が取らなければ、文化は変わらないと考えている。