例えば「現場の○○さんがその日までに請求書や領収書を提出してくれない」と言えば、その人のところに私も一緒についていって、期限内の書類提出をお願いしました。「取引先の理由で無理です」ということでなければ、あとは「経理社員の能力次第」になります。誰でもプライドはありますから、期限内に必死に作業をするようになりました。

 その結果、「私はここをやるから、あなたは私の資料をチェックしてくれない?」という経理部内の会話が増え、期限内にどうやったら全員が作業を終えられるかを考え、お互い協力するようになりました。雑談などしている暇はないので、おのずと無口になります。経理のスピードも徐々に上がっていきました。

月次決算の早期化!すべてがうまくまわり出した

 一方、経理部が決められた期限内に月次の数字を出せるようになるにつれて、社長をはじめ経営陣にも心の余裕が出てきます。

 それまでは「一体いつ月次決算の数字が出てくるのか」と気がかりで仕方がなかったのが、決められた日に出てくるようになるわけですから当然のことです。経営陣も素早い経営判断が徐々にできるようになります。結果、現場に対するフィードバックも徐々に速くなっていきました。

 すると現場も「経理部が必死で作業をすることで数字が速く出るようになった」と認識します。かつては、現場から経理に数字のことを聞いても「わからない」「自分が担当ではない」の一点張りだったのですが、すぐに分析資料が出てくるようになったのです。当然、現場もやる気が出てきますし、行動も起こしやすくなりました。

人というのは、根拠となる数字がないと行動に移しにくく、数字があると、安心して行動に移しやすいのです。

 役員、社員に必要な「数字」を速く提示できれば、各々の行動も他社より速くなります。おのずと競争に勝てる確率も高くなり、受注も伸びていくのです。

 コスト管理にも大きな影響がありました。それまではタイムリーに数字が出なかったので、原材料の過剰調達や製造作業の遅延などがあっても、責任がうやむやになり、対応も手遅れになっていました。

 ところが、すぐ数字が出ることによって、「なぜ過剰に調達してしまったのか」「どの工程で作業が遅延して人件費がかかったのか」「今後どうすればいいのか」がタイムリーに議論され、改善されていったのです。

たった1年で1億円の利益改善に成功!

 これらの改善の結果、月次決算ごとに「売上は増え、コストが減る」ようになりました。それまでは月次決算を翌月25日以降で締めていたのですが、私が入った半年後の10月には翌月8営業日で締まるようになりました。

 さらに半年が経過し、3月決算の数字はどうなったか。なんと5000万円の営業赤字から5000万円の営業黒字へと、反転して黒字化したのです。わずか1年で、1億円の利益改善に成功しました。

 これには私もその会社の社長も大変驚きました。

「経理なんてカネにならない」はやはり嘘だったのだ。
 経理をベースに全体を改善すると、会社と会社の数字は変わるのだ。
 私自身、改めて経理の可能性を確信した出来事でした。

 次回以降の連載では、「スピード経理」の実現するための方法をお伝えしていきます。