「環境変化が緩やかだった時代、ある分野でスキルを積み上げてきた人は尊敬され、やがて一定のポジションを得られました。ところが今は、20年かけて築いたスキルが突然陳腐化しかねない時代です。企業の戦略転換や事業売却などもしばしば起こるので、そのたびに社員は振り回される。そんななかで、40代が疲弊してしまった」

 メンタルヘルス面での問題を抱える会社員が増えている背景には、こうした事情がある。このことは、組織全体にとっても深刻な課題と高橋氏は言う。

「40代のぶら下がり社員が増えれば、その会社の存続さえ危うくなります。そんな人たちを身近で見ていれば、若手の社員も不安でしょう」

ビジョンと戦略に基づく
“わが社標準”が必要

 これまで「ヒト」に対する投資は削られる方向だったが、そろそろ、そうした方針を見直すべき時期かもしれない。多くの人にとって、仕事をしている期間は40年以上。何度かのスキルチェンジは当たり前、という時代が訪れようとしている。それをサポートする仕組みがなければ、ぶら下がり社員は増えるばかりだ。

 どうやら、日本企業は人事マネジメント、あるいは人事制度を根底から問い直す必要がありそうだ。とすれば、やはりグローバル標準に近づける必要があるのだろうか。だが、高橋氏はこれを否定する。

「成長企業に共通する人事制度は、“わが社標準”です。まず『どのような企業になりたいか』というビジョンや戦略があって、それに基づいた人事制度をつくっているのです」

 戦略を実現するためには、どのような価値観やスキルを持つ人材が、どの分野にどの程度必要か。もし不足していれば、どのようにして育成または獲得するか。その人材をどのように遇するか。こうしたアプローチで、人事マネジメントを考えることが重要だ。

 出発点を間違えれば、制度のための制度が出来上がるだろう。人事マネジメントを再構築しようとする企業に問われているのは、企業としての意思である。

 

 人事・組織戦略の一方で、忘れてはいけないのが、個々の社員の将来設計に関するサポートだ。

 東京スター銀行が今年1月に行った調査では、将来のおカネに不安を感じている日本のビジネスパーソンは91.0%と、同時に調査した米国・中国よりも高くなっている(図)。給与所得が低下する一方で将来の社会保障制度が不透明なことなどが影響していると思われる。

 また、社員の健康に対するサポートも重要だ。最近よく話題になるメンタルヘルス上の不調だけでなく、生活習慣に起因するメタボリック症候群への関心も高まっている。

 企業にとってヒトは財産、とはよくいわれる言葉だが、社員の後顧の憂いを取り除くためにも、個人に任せきりにするのではなく、企業側が主体的サポートしていくことが求められている。