橘玲の世界投資見聞録 2017年1月19日

メキシコ国境の先にある「世界でもっとも危険な街」と
トランプ新大統領の主張の前にできていた「国境の壁」
[橘玲の世界投資見聞録]

  第45代アメリカ大統領に就任するドナルド・トランプの掲げる政策は、オバマケア廃止、TPPからの離脱、ムスリムの入国禁止、米国の雇用を減らす企業への制裁などいろいろあるが、そのなかでもっとも耳目を集めたのは「メキシコとの国境に万里の長城をつくる」だろう。

 カリフォルニアやテキサス、フロリダの一部はかつてはスペイン領で、メキシコとのあいだには長大な国境がある。西部劇では保安官に追われた悪党が、砂漠の国境を越えてメキシコ側に逃亡するのが定番だった。そのイメージが強いので、多くのひとは、アメリカとメキシコの国境はいまも自由に行き来でき、だからこそ「国境に壁をつくる」というトランプの主張が支持を集めたと考えているだろう。

 じつは私もその一人だったのだが、メキシコとの国境がどうなっているのかGoogle Earthで確認すると、そこには壁のようなものが映っている。これはいったい何なのか。昨年末ひさびさにアメリカを旅する機会があったので、アルバカーキで車を借りて国境の町エル・パソまで見にいくことにした。

アメリカ側には出国審査がない

 メキシコとの国境はカリフォルニア、アリゾナ、ニューメキシコ、テキサスの4州にまたがるが、エル・パソはテキサス州の最西端で、ニューメキスコ州との境にある。テキサス州の帰属をめぐるアメリカ・メキシコ戦争(米墨戦争)でリオ・グランデ(スペイン語で「大きな川」)が国境になったことで街が南北に分断され、北がエル・パソ、南のメキシコ側がシウダー・フアレス(旧名はエル・パソ・デル・ノルテ)と呼ばれるようになった。

 エル・パソの人口は70万人弱で、その7割以上がヒスパニックとされている。そのためアメリカ領にもかかわらず、スペイン語が英語と同様に使われている。

エル・パソの夜景                                                (Photo:©Alt Invest Com)
エル・パソはかつてアステカ帝国の領土で、アステカ文明に由来するオブジェが置かれている                                                          (Photo:©Alt Invest Com)

 

 メキシコとの国境はエル・パソの中心部から南に20分ほど歩いたところにあり、ホテルにチェックインしたあと写真を撮りに行くことにした。

 リオ・グランデを跨ぐ橋は、東側のサウス・スタントン通りと、西側のサウス・エル・パソ通りの2カ所にあり、川の手前に貨物列車の線路が走っている。最初に東側の橋に行ったのだが、車道の右側が歩行者用の通路になっていて、歩行者の通行料は25セント(約30円)だった。せっかくここまで来たのだからと、橋を途中まで渡ってみることにした。

これは西側にあるサウス・エル・パソ通りの橋。日は大きく西に傾いて、雲が美しい   (Photo:©Alt Invest Com)
サウス・スタントン通りにある橋の入口。メキシコ側に渡る車はそれほど多くない  (Photo:©Alt Invest Com)
右側が歩行者用入口。通行料は25セントでパスポートのチェックもない          (Photo:©Alt Invest Com)

 最初に驚いたのは、リオ・グランデだ。「大きな川」というその名から悠々たる大河を思い描いていたのだが、エル・パソのリオ・グランデはコンクリートの堤防のあいだに水がすこし溜まっているだけで、まったくイメージとちがっていた。

 次に驚いたのは、国境の看板を撮ってアメリカ側に戻ろうとすると、向こうからやってきたおじさん(エル・パソで買い物したらしく、荷物を抱えて徒歩で橋を渡るひとはかなり多い)から「ここは一方通行だよ」といわれたことだ。メキシコに行きたいわけではなかったので半信半疑のままゲートに戻ると、警備員から「この橋は出国専用なので、入国は向こうの橋を使いなさい」と指示された。

 そういわれてみればたしかに、サウス・スタントン通りはメキシコ側に向かう一方通行で、入国管理の施設もない。いったん橋のゲートをくぐってしまうと、メキシコに入国して、サウス・エル・パソ通りの橋からアメリカに再入国しなければならないのだ。

 なおアメリカには出国審査がない(空港の場合は航空会社が出国手続きを行なう)ので、パスポートを所持していなくても、通行料の25セントさえ払えば国境ゲートを越えることができる。しかしパスポートがないとアメリカへの再入国はもちろん、メキシコに入国することもできず橋の上で立ち往生して、とんでもなく面倒なことになるのは間違いないので、エル・パソで橋を渡るときは注意したほうがいい。

国境を渡る橋には歩行者用通路がある                              (Photo:©Alt Invest Com)
ここがアメリカとメキシコの国境であることを示すボード   (Photo:©Alt Invest Com)
エル・パソのリオ・グランデ。西部劇のイメージはまったくない                        (Photo:©Alt Invest Com)

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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