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焦点:英首相の「ハード・ブレグジット」は危険な賭けか

2017年1月20日

Andy Bruce

[ロンドン 17日 ロイター] - 英国のメイ首相は、ついに彼女にとっての「ブレグジット(英国のEU離脱)」の本当の意味を明らかにした。英国は欧州連合(EU)を完全に脱退し、独自路線を歩むが、その一方で、EUとの包括的貿易協定の合意が得られることを期待する、というものだ。

英国は、製品・サービス双方にわたるEUの巨大な単一市場から離脱し、その代わりに「大胆で野心的な」自由貿易協定(FTA)の締結を試みる。ノルウェーやスイスといった一部の欧州諸国が世界最大の経済地域であるEUと結んでいるような貿易協定は否定された。

メイ首相は17日に行った演説で、離脱交渉を2年以内に完了するとして、EUとの協力を強調し、ブレグジットに向けた「段階的な」移行過程を求めた。

首相演説を受けて、このところ下落していた英ポンド相場は同日回復し、対ドルで1日としては少なくとも1998年以降で最大となる上昇を記録。だが、EU諸国の政府首脳からは、微妙な反応が返ってきており、メイ首相が望んでいるような貿易協定への合意は、苦痛も伴う難しい作業となる可能性を示している。

 「こちらから奪うばかりだ。差し出すものはどこにあるのか」とチェコのプロウザEU問題担当相は、ツイッターに投稿。アイルランド政府は、ブレグジットの規模については何の幻想も抱いていないと述べている。

メイ首相は交渉上の優先課題として、移民制限、欧州司法裁判所(ECJ)管轄からの離脱、EU関税同盟の正式加盟停止など12項目を挙げた。関税同盟への加盟は英国独自の貿易協定締結の妨げとなっているとしたほか、欧州とはなるべく摩擦のない形で貿易を維持したいとの考えを明らかにした。

包括的な自由貿易協定(FTA)を目指すことによって、メイ首相は、加盟国間の移動の自由やEU予算への多額の拠出といった政治的に評判の悪い妥協をほとんど考えずに、白紙に近い状態で交渉に入ることが可能となる。

<FTAに見込みはあるか>

だが、FTA合意に至るプロセスはリスクに満ちている。メイ首相は、EUと英国の今後の関係について2年以内に合意し、その後に導入期間を設けたいと発言した。

しかし、自由貿易協定の交渉には通常、2年よりもはるかに長い時間がかかる。カナダとEU間のFTAの場合、予想される発効時期までに7年かかる見込みだ。

 「合意形成をめぐる不確実な状態が長く続けば、経済にとって大きな問題となるが、これを克服するために消費者によけいな出費を求めるわけにはいかない」と英有力シンクタンク、国立経済社会研究所のジャグジット・チャダ所長は語る。

最近の英国経済にとっては、貿易や投資といった他の要因が伸び悩むなかで、個人消費が主なけん引役となっている。

また、英国経済の主力となっているサービス部門における貿易障壁の撤廃を求めることも、困難なものとなる可能性が高い。もっとも、ブレグジット支持者は、EU内部でもすでに障壁が存在していると主張しているが。

また、英シンクタンク、センター・フォー・ユーロピアン・リフォーム(CER)によれば、貿易協定が充実すればするほど、英国が遵守しなければならないEU規制も増えてくるという。

FTAという選択肢に賛同する人々は、これによって、ほぼ従来どおりにEUとの貿易を維持しつつ、単一国としては最大の貿易相手国である米国や、ブラジル、インドといった新興市場諸国とのあいだで、じかに貿易協定を締結する自由も与えられる、と主張している。

さらにブレグジット支持者は、EUに対する英国貿易は、製品分野において、2016年11月に過去最大となる85億9000万ポンド(約7400億円)の大幅な赤字となっていると指摘。EUとしても、これだけの市場を切り捨てる余裕はあるまい、と主張する。

<究極の選択>

メイ首相は、こうした貿易状況が交渉材料になると考えているようだ。演説では、不利な貿易協定であれば、ない方がましだと述べており、これは、各国の関税上限を定める世界貿易機構(WTO)のルールに訴える可能性があることを実質的に認めたに等しい。

こうしたシナリオになれば、英国は、金融など規制の厳しい部門を中心に、サービス分野における障壁に直面することになろう。これは「非常に危険な道」だとJPモルガンのエコノミスト、マルコム・バー氏は懸念する。

 「成功する交渉戦略には、野心的な目標と、確実な落とし所があるものだ。メイ首相に前者があるのは確かだが、後者を用意しているかどうかは疑問だ」とバー氏は顧客向けの書簡で記している。

確かに、メイ首相が「国際協調主義の英国」というイメージを掲げる一方で、ハモンド財務相は英国議会に対し、EUとの包括的なFTAが実現しないようであれば、英国は強硬姿勢を取り、法人税の大幅引き下げで対抗する可能性もあると語っている。

 「(ブレグジットに向けた妥当な条件が得られないとしても)英国民は、単に屈服して今までより貧しくなることを甘受するつもりはない」とハモンド氏は述べた。「わが国の競争力を維持し、生活水準を守るために、できることは何でもやる」

(翻訳:エァクレーレン)

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