反トランプデモのきっかけを作ったのは1冊の本だった

 だが、ここでアメリカ人が内省的になると思ったら大間違い。「これじゃダメだ」と思ったらすぐに行動を起こすのが、良くも悪くもアメリカのお国柄。就任式を待たずに首都ワシントンだけでなく、全国でデモ集会が繰り広げられ、就任式の翌日に「ウィメンズ・マーチ」と銘打ったデモでは就任式に集まった観衆の3倍もの人数が首都ワシントンに集まった。総獲得票数ではヒラリー・クリントンが獲得した票数の方が、米人口に1割近い300万票もトランプのそれを上回り、それだけ多くの人が新政権の誕生を憂えているわけだが、その彼らが行動を起こすきっかけの一つを作った本がある。

 それは、オバマ大統領政権下の議会でスタッフとして働いていたミレニアル世代が自主的に作った行動のためのマニフェスト、「INDIVISIBLE」だ。ネットから無料でダウンロードできるこのガイドには、具体的にどうやって自分の選挙区のローカル議員に働きかけるのが有効かを詳細に紹介している。PDF版で昨年暮れから60万部もダウンロードされたという。そこには、メールやウェブサイトをポチるだけでできるお手軽な署名運動よりも、実際に議員のオフィスに出かけていって、有権者の気持ちを伝える方法が有効だということが書いてある。

 「富の再分配を求めた」オキュパイ運動は学生を始めとする若い人たちの舞台だったが、反トランプの運動は、彼を支持する中年白人男性以外のすべてのマイノリティー、つまり女性、LGBT、ミレニアム世代、カリフォルニアやニューヨークなど都会に住む人たちと、幅広い層が参加している。もちろん、そこには多くの男性もいる。

 むしろ、大統領選挙の予選からずっとトランプのでまかせに付き合わされて来たマスコミの人たちが疲弊しているようにも見える。何しろ、記者会見をするたびにベテラン記者が「フェイクニュース」と蔑まれ、報道官から就任式パレードの群衆の数がどうのこうのとお叱りを受けるのだから。

『フラット化する世界(日本経済新聞出版社)』で知られるニューヨーク・タイムズ紙のベテランコラムニスト、トーマス・フリードマンに至っては『Thank You for Being Late(「遅れて来てくれてありがとう」(未邦訳)』と題した新作のエッセイ集で、まずは今まで縁のなかった人との対話から始めてみようなどと、ネット疲れしたようなことを書いてベストセラーになっている。それだけでなく、IoTが加速する世界で我々はどう生きればいいのか、Fast(ネットのスピードに対応する)Fair(変化に取り残された人々に手を差し伸べる)Slow(ノイズを締め出し、価値観の見直しを図る)であることが必要なのではないかと水を向けてくる。

アップル、グーグル社員が注目している本とは?

 これから出るビジネス本の傾向は、昨年から引き続き女性管理職に関するもの、中国の経済バブルを予測する本が多そうだが、興味惹かれるタイトルを挙げてみると、日本でも話題になったIoT宿泊ビジネスのAirBnB(エアービーアンドビー)の舞台裏を描いた、リー・ギャラガーの本(日本語版は日経ビジネスから刊行予定)が面白そうだ。

 他にも、アップルやグーグル社員がこぞって受講し、ハフィントン・ポスト創設者のアリアナ・ハフィントンやフェイスブックのシェリル・サンドバーグらも信奉するビジネス・グルが書いた本が刊行決定している。米最大のキャリアSNSサイト、リンクドイン社の「企業付き哲学者」という変わった肩書きを持つフレッド・コフマンの『The Meaning Revolution』がそれだ。ビジネスリーダーたちも自分たちが何をすべきか、その「使命」を真剣に考え出したということなのだろう。