ラグジュアリーブランドと
提携、売上アップの効果も

 ケア・メンテにいち早く注目したのが、英国のラグジュアリーブランド、ダンヒルである。「よいものを長く着るという英国の伝統を紹介するお手伝いを、当社が行うことになりました」と、橋本氏は明かすが、アルフレッドダンヒル銀座本店で取り扱う衣料のケアとメンテナンスをハッピーが業務提携を結んで早4年になる。

橋本英夫・ハッピー代表取締役

 さらに、西宮阪急では、ケア・メンテ専用サロン『H×H ケア・メンテ サービス サロン』を設置した。「阪神間の本格志向の強いお客様から、幅広く支持されています」と、橋本氏。セレクトショップである全国のトゥモローランドとエディションでも、ケア・メンテの受付を代行している。

 これらの提携先では、ハッピーの手厚い研修により、ケア・メンテのノウハウに精通した販売員が対応する体制を整えており、橋本社長は「このことが、提携先の販売戦略にも好影響を及ぼしているようです」と言う。販売員たちは、素材やシルエットにとらわれず、顧客が気に入った服を、自信をもっておすすめできる。さらに、豊富な知識を持っているため、日常の手入れなどに有効なアドバイスを行える。だから、装うことを大切に考える顧客を捉えて離さないのである。

 このため、どの店舗でも売上が伸びるなど、提携は高い効果を挙げている。「よいものを、きちんと手入れして、長く着たいというお客様のニーズを、しっかりととらえることができているのだと思います」と、橋本社長も胸を張る。

真に豊かなライフスタイルを
衣生活の面から提案

 よいものを長く着る――これこそ、京都に本社を構えるハッピーと橋本氏が発信したいメッセージに他ならない。というのも、京都には『着だおれ』の文化があると言われる。「友禅染めや西陣織などに代表される伝統工芸の粋をとことん楽しむという意味が広く知られていますが、着だおれには『着たおす』という意味もあるのです」と橋本氏。白い生地を薄い色に染めて着物に仕立て、年を経るごとに濃色に染め替えて、とことん着たおす。この着だおれの伝統を大切にし、本当に気に入ったものを求めて『捨てない』、豊かなライフスタイルを世に広めたいというのが、橋本氏の考えだ。

 京都にはまた、相手にそれとわからせずに心づかいを示す文化もある。これを現代的に体現したのが、ケア・メンテのコンサルティングサービスだ。顧客情報や衣類1点1点のデータを電子管理。おすすめのケア・メンテ内容について細かく伝えるとともに、活用する技法の選択についてアドバイスしている。衣服が持ち込まれていなくとも、これまでに扱った服の傾向や着用の状況を判断して、お手入れに関する情報を提供する。「いわゆるCRMの手法を活用しているのですが、その根底にあるのはお客様のライフスタイルをさりげなくサポートしたいという気持ちです」と橋本氏は説明する。

橋本代表取締役の近著

 ケア・メンテは顧客の声を聞きながら、まだまだ進化を続けている。新たな提携先との調整も進行中で、関心を示すブランドはひきもきらない。橋本氏は、引き受け数拡大をめざすためのプランも温めている。こうした事業拡大は、利益のためのみにあらず、真に豊かなライフスタイルを衣生活の面から提案していこうという、ハッピーのあくなき挑戦なのである。ハッピーのビジネスとその背景や目的は、橋本氏の近著『「捨てない」生き方 着だおれ京都からの発信』に詳しい。