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焦点:自動車標的のトランプ戦術、日本の生産・輸出に打撃も

2017年1月31日

[東京 31日 ロイター] - トランプ米大統領が自動車分野における日米貿易収支の不均衡を非難し、日本の自動車メーカーに圧力をかけ始めていることで、貿易・生産面で自動車産業への依存度が大きい日本経済にとって打撃になりかねないとの懸念が専門家の間で広がり出した。

基幹産業の生産や研究開発の米国シフトが加速すれば、日本企業の競争力低下や、国内の設備投資や賃金上昇といった安倍政権の目指す経済好循環にも水を差す可能性がある。

<対米自動車貿易で稼ぐ日本の黒字>

 「今や自動車以外に対米貿易で稼げる製品は、残っていないも同然だ」と、日米貿易に詳しいある市場関係者は語る。

2016年の対米貿易は6.8兆円の黒字を記録、地域別では最大だ。その75%にあたる5.1兆円を自動車・部品輸出で稼ぎ出している。

一方、エネルギー輸入などの規模が大きいため、全体の貿易黒字は対米黒字を下回る4.0兆円にとどまる。

しかも日本からの完成車の対米輸出は4.4兆円だが、米国からの完成車輸入は901億円。

この数字だけに着目すれば、不均衡は明らかだ。トランプ大統領が「公平でない」と日米自動車貿易について言及している背景に、対日赤字の大きさが影響している可能性がある。

トランプ大統領の狙いは、単純に対日貿易赤字の削減にあるのではなく、米国政治で重要性の高い自動車分野で、トランプ大統領の存在感を示すことにあるとの分析もある。

第一生命経済研究所・首席エコノミストの熊野英生氏は「トランプ大統領の意識の下にあるのは、米国自動車産業の雇用維持との見方もできる。雇用拡大を真面目に狙うのならば、米国内への海外メーカーの工場進出を促すよりも、サービス分野の雇用増を優先してもよさそうだ。だが、トランプ大統領のこれまでの対応は、特定分野の雇用者を守ろうとすることに重きが置かれていると感じられる」と指摘する。

そうであるならば、今後の日米交渉を経て、日本の自動車業界への影響はかなり大きな規模になる可能性も出てくる。

<鉱工業生産の2割占める自動車>

自動車産業の国内生産の動向は、裾野が広いだけに日本全体の生産動向にも大きく影響する。

鉱工業生産における自動車関連産業のウエートは2割弱に上り、全業種中最大。しかも生産は3四半期連続で増加基調にあり、自動車はそのけん引役となっている。

自動車・部品の対米輸出はすでに現地生産化で年々減少傾向にあり、16年中は前年比6%程度減った。それでも、自動車生産台数全体の約6割は輸出向けであり、対米輸出に絞ると生産台数の2割程度を占める。

SMBC日興証券・チーフマーケットエコノミスト、丸山義正氏は「今後は日本でなく、米国で生産する傾向がますます強まるだろう」と指摘。「トランプ大統領の具体的政策がわからないので、短期的には影響は出ない。だが、中長期的にみれば、貿易・生産にトランプ政策の影が出てくるのは確実だ」とみている。

そのうえで「このままでは日本の貿易黒字全体にも影響してくる。自動車産業の裾野は広く、積み上げてきた日本の製造業の重層性や競争力を損なうリスクが高い。日本経済や産業という観点では、中期的にマイナスの影響が生じうるだろう」と警鐘を鳴らしている。

<相次ぐ対外戦略の狂い>

米国は環太平洋連携協定(TPP)から正式に離脱。北米自由協定(NAFTA)の再交渉が本格化すれば、メキシコ進出の自動車関連産業の戦略に「壊滅的な打撃」(自動車関連企業)となる可能性がある。

さらに英国の政権交代と欧州連合(EU)からの完全離脱は、英国事業に力を入れてきた日本企業にも影響が出る可能性があり、日本企業は世界の政治情勢の激変で大きなリスクを抱えている。

ただ、したたかに対応している日本企業も存在する。トヨタ自動車<7203.T>は自動運転技術の分野でマイクロソフト<MSFT.O>と連携。ホンダ<7267.T>は燃料電池の基幹部品をゼネラル・モーターズ(GM)<GM.N>と共同生産する。

 「米国第一主義」を掲げるトランプ政権が重視する米企業と組むことで、「風圧」をかわす戦術ともみえる。

野村証券・経済調査部チーフエコノミストの美和卓氏は「日本メーカーが米企業と提携を進めている戦略は理解できる。ただ、米国での生産・雇用の拡大につながるとしてもトランプ大統領の圧力をかわす安全保障というには物足りない」と分析。「安倍首相の交渉力が試される。最悪のシナリオは、米国ブランド車の輸出増加のために、為替調整や輸入数量割り当てといった議論になってしまうことだ」と述べている。

トランプノミクスへの期待感が強かったマーケットだが、自動車分野優先の戦術が今後、表面化してくれば、市場が日本の自動車産業の将来に対し、悲観的になるリスクもありそうだ。

*本文中の誤字を修正しました。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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