いまから16年前、1995年1月17日未明に起こった阪神・淡路大震災は兵庫県から6402名の尊い命を奪った。その中には44名の神戸大学学生も含まれている。私自身も友人や知人を失った。自宅は半壊し、両親は約1年の疎開を経験した。しかし、東日本大震災(東北・関東大震災)は、その阪神・淡路大地震をはるかに上回る被害をもたらした。

経済復興のキーワード

 災害復旧、被災者の探索、医療救護、救援物資および住宅の確保、エネルギーの確保、原子力発電所問題の解決、被災者に対する経済的支援、被災者支援情報の提供、風評被害の防止等、直面している難題を次々と解決する必要がある。

 それに加えて、震災によって生じた、また生じつつある経済的被害への対応が必要である。大災害への対応を急がれている今、経済活動の支援は中長期的課題であるとみなされる傾向がある。もちろん、優先順位は災害復旧にある。しかし、中長期的課題を二の次にしてはならない。いま適切な意思決定を行い行動することが、中長期的課題の解決には不可欠なのである。

 ここでは、東日本大震災からの経済的復興に向けての指針を示したい。経済的復興のキーワードは「早期対応」「孤島発想からの脱却」「ネットワークの活用」である。

 平常時の常識は、緊急時には無力である。ただし、私たちの発想の大部分は平常時を前提にして行われる傾向があるので、誤った意思決定を行う可能性が高い。平常時に、大胆、唐突、思いつき、非常識、実行不能などと一刀両断されてしまうような方策の中に、正しいものが含まれている可能性が高い。

 孤島発想を捨てれば、ネットワークを活用するアイデアが自然に生まれてくる。このようなアイデアの中に、正しい行動のヒントが潜んでいる。本論に入る前に、まず、企業ダメージの現状を把握しておこう。