[ロンドン 30日 ロイター] - インフレは知らぬ間に忍び寄るものだ。1年前にマイナスだった先進諸国のインフレ率は主に原油高に押し上げられる形で、過去数カ月間に中銀の掲げる物価目標に向けて上昇した。歴史に学ぶならば債券市場は要警戒だ。

ハーバード大学から出向してイングランド銀行(英中央銀行)の客員研究員を務めるポール・シュメルツィング氏が過去800年の債券市場を調べたところ、現在の市場環境はニクソン氏が米大統領だった1960年代末期と最も類似性が高いことが分かった。

当時の米国は長引く低インフレ期から脱しつつあり、労働市場は引き締まり、企業寄りの大統領の誕生で財政拡張への期待が高まっていた。債券投資家にとっては厳しい時代だ。

米国債価格は1965年から70年に実質ベースで36%下落。この間に消費者物価の年間上昇率は1.6%から5.9%へと3倍以上に加速した。世界最大の米国債市場は世界の債券市場の基調を左右する。

こうした「インフレの反転上昇」は36年間続いた国債強気相場の終焉を告げる最後の一撃となった。シュメルツィング氏は「60年代のインフレ期待をみると、それほど急激な上昇は予想されていなかった。しかしインフレは即座に加速し、市場を驚かすことがある」と話す。

その上で、過去の基準に照らせば債券は2桁の損失が発生する可能性があると指摘。2003年に日本で起きたような利回り曲線の急激なスティープ化など他の売り材料が重なれば壊滅的な状況に陥ることもあり得るとした。

<強気時代は終結か>

トランプ氏のリフレ政策への期待や世界経済に回復の兆しが出ていることを背景に債券利回りは世界的に上昇している。

10年物米国債の利回りは昨年11月の米大統領選以降に65ベーシスポイント(bp)ほど上昇して2.50%近辺で推移。ユーロ圏で指標となる10年物ドイツ国債の利回りは0.50%弱と約1年ぶりの高水準にある。

シュメルツィング氏の分析によると、現在の市場はインフレ期待の織り込み度合いが甘いかもしれない。

インフレの加速で利回りが急上昇すれば債券投資家は痛みを被る。例えば指標となるドイツ国債の表面利率はわずか0.25%に過ぎない。利回りが小幅上昇しただけで、投資家のリターンは押しつぶされ、売りが売りを呼ぶ展開になり得る。

シュメルツィング氏は2015年にインフレの上昇を示す経済統計をきっかけにドイツ国債の利回りが急激に上がった例を挙げ、インフレは今なお債券市場を動かす重要な要因だと指摘。現在が2015年当時と異なるのはインフレの上昇がより持続性を帯びている点だとした。

米国は12月の1時間当たり平均賃金の伸びが前年同月比2.9%と09年以来の高水準となった。ドイツでも失業率は1990年の東西ドイツ統一以来の低い水準にあり、労働市場の引き締まりが読み取れる。

さらに中国の12月卸売物価は5年超ぶりの高水準で、英国ではインフレが今年末には3%に達して英中銀が目標とする2%を大幅に超えると予想されている。

ロンバードのチーフエコノミストのチャールズ・ドゥマス氏は「変化した点は、もはや経済に大きな緩み(スラック)がみられなくなったということだ」と述べた。

ピクテの試算によると、米国債の今後10年間の年間リターンは過去10年間実績の4.8%の半分以下に悪化する恐れがあり、ドイツ国債は平均リターンがマイナスに落ち込むという。

(Dhara Ranasinghe記者)