ランキング上位に入る
人気アナリストの「正体」とは?

そうなると、「メディアに選ばれるアナリスト」というのは、2種類に分かれる。一つはいつでも取材にスムーズに応じてくれて、わかりやすい話をすぐできる人。メディアの人たちは厳しい時間的制約のなかで、一定量のニュースを次から次へと「生産」しなくてはならない。メディア側でストーリーの筋道をつくってしまっている場合には、スピーディに事実確認をして、臨場感の味付けや権威づけを手伝ってくれる専門家が重宝される。

なお、経済メディアが伝える「アナリストランキング」などがあるが、これに投票するのは投資家であり、普段からサービスしてくれているアナリストへの「対価」としての意味合いが大きい。経済予測の精度はほとんど勘案されず、アナリストの所属する証券会社の営業サービスがものを言う、一種の人気投票である。

そして、著名アナリストになるためのもう一つの要素が、センセーショナルで面白いシナリオを語れることである。これは経済書のマーケットなどでもよく見られるパターンだ。こういう人たちは定期的に書籍を刊行するが、経済の状況がどれだけ変化しようとも、「国債が暴落し、日本経済が破綻する!」「未曾有の円高がやってくる!」など、ネガティブな見通しをいつも繰り返し語る点で共通している。前回の(大ハズレだった)予測については「なかったこと」になっているケースがほとんどだ。

これらは経済分析や投資判断の材料としての価値はゼロだが、一定数のファンが絶えないことを考えると、一種の「伝統芸能」ないし「エンターテインメント」として消費されており、間接的には日本経済に貢献していると言うべきかもしれない。むしろ、おなじみの「日本が危ない!」論が聞こえているあいだは安心だ。彼らが万が一、「日本がよくなる!」などと言いはじめれば、逆に、私は景気の行き過ぎを疑うだろう。

いずれにしろ、日本の経済メディアは、世界の投資のプロたちからすれば考えられないようなデマ情報を流しているというのが実情である。だが、最後につけ加えておけば、アナリストのなかにも良心のあるプロフェッショナルはいるし、しかるべき専門家の声を報じるメディアも存在している。それを見分ける目を養っていただくうえでも、最新刊『日本経済はなぜ最高の時代を迎えるのか?』を参考にしていただければ幸いである。

[通説]「著名人の経済解説なら、わかりやすくて信頼できる」
【真相】否。メディアが流す「経済予測」は外れて当然。

村上尚己(むらかみ・なおき)
アライアンス・バーンスタイン株式会社 マーケット・ストラテジスト。1971年生まれ、仙台市で育つ。1994年、東京大学経済学部を卒業後、第一生命保険に入社。その後、日本経済研究センターに出向し、エコノミストとしてのキャリアを歩みはじめる。第一生命経済研究所、BNPパリバ証券を経て、2003年よりゴールドマン・サックス証券シニア・エコノミスト。2008年よりマネックス証券チーフ・エコノミストとして活躍したのち、2014年より現職。独自の計量モデルを駆使した経済予測分析に基づき、投資家の視点で財政金融政策・金融市場の分析を行っている。
著書に『日本人はなぜ貧乏になったか?』(KADOKAWA)、『「円安大転換」後の日本経済』(光文社新書)などがあるほか、共著に『アベノミクスは進化する―金融岩石理論を問う』(中央経済社)がある。