移住先で「安心して働けるようにする」ことが必要

 ふるさと県民登録制度は個人を対象とするものだが、2016年12月からは新たに企業に働きかける『トライアル移住・二地域居住推進事業』も始まった。

「移住となると、働く場所がどうしてもネックになるんですね。移住先で仕事を見つけるのは難しいし、希望する仕事を見つけるのはさらに困難というのが現状です。しかし、茨城県は東京に近いという利点があるので、多くの企業でフレックスタイム制やテレワークの導入などにより働き方改革が進むのに伴い、今の仕事を続けながら移住・二地域居住にトライできる社員が増えてくると考えられます。そうした企業とタイアップし、トライアルとして社員の移住・二地域居住を進めていく予定です」(前田課長)

 内閣官房による「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」(調査対象:東京都在住18~69歳男女、1200人、調査時期2014年8月)を見ても、移住する上での一番の不安・懸念点は「働き口が見つからない(41.6%)」こと。地方への新しい人の流れをつくるには、その前提として「移住先で安心して働けるようにする」ことが必要なのだ。

 ということは逆にいえば、その点さえ解決できれば、移住を希望する社員は増えるかもしれない。モバイル端末やテレビ会議システム、クラウドの進化など、ICT技術の進展によって技術的にテレワークが導入しやすくなっている環境が追い風になるのは間違いないだろう。

 同調査では、東京在住者の約4割(うち関東圏以外の出身者は約5割)が地方への移住を検討している、または今後検討したいと答えている。とくに30歳代以下の若年層および50歳代男性の移住に対する意識が高いことが明らかになった。したがって、若者や中高年層をターゲットに移住を支援すれば、東京に集中する人口流入の流れを変えられる可能性も十分あるわけだ。

 最近は本業とそれ以外の仕事や非営利活動への参加を両立させるパラレルキャリアを志向する若者たちが増えている。社外活動であっても、自分の持つ専門知識やノウハウを活用することで新たなキャリア形成を目指す人も多い。なかには、地域の活性化プロジェクトに企画段階から参加し、自分の持つスキルを生かしながら一定の成果を上げているというケースもある。こうしたパラレルキャリアを後押しすることは、企業にとっても社員に新たなスキルを習得させられるという利点があるため、今後、積極的に取り組む企業は増えるだろう。

幅広い移住・二地域居住ニーズに応えられるのが茨城県の強み

 具体的に、どのような企業の参加が考えられるのだろうか。

「在宅勤務・テレワークを実施している企業はもちろん、時差出勤・フレックスタイム制度の導入など社員一人ひとりのワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)を実現する多様な働き方を取り入れている企業の社員は、茨城への移住・二地域居住が可能でしょう。例えば、週3日、都内に出勤すればいいのであれば、残りの日は在宅勤務をしながら豊かな自然の中でゆったり過ごすことができます。また、県南エリアのつくばエクスプレス沿線やJR常磐線沿線は、都内までの通勤時間が1時間程度ですから、フレックスタイムだけでなく、普通の勤務体系の人でも移住しやすいと思います」(前田課長)

 茨城県の特徴は、東京圏に近接し、南北に長いこと。東京の中心から県南の取手市までは40km、県都の水戸市までは100kmの圏内にある。交通の便は、水戸から東京までJR特急で1時間15分程度、高速バスも頻繁に出ていて2時間程度。高速バスの東京駅発水戸行最終は24時だ。

 さらに、より自然豊かな県北エリアでは「IBARKI KENPOKU LOCAL CREATIVE PROJECT」を推進中。県北に位置する6市町(北茨城市・高萩市・日立市・常陸太田市・常陸大宮市・大子町)と民間および建築家が連携し、商店街の空き店舗などをリノベーション後、シェアオフィスにして入居を希望するクリエイターやクリエイティブ企業などをサポートしている。

 このように「都内に通勤する人の移住」から、「週に2~3日、都内のオフィスに出社するテレワーカーの移住」、あるいは「企業の部門単位で地方に移る移住」まで、幅広い移住・二地域居住ニーズに応えられるのが茨城県の強みなのだ。