「コミュニケーション能力を磨く」とは、「感性を磨く」こと

 本書の「人から信頼されるために必要なコミュニケーション能力を磨く」べしというメッセージは、ゴーン氏が端的に指摘された「繋がる能力や共感される能力を磨く」ことと、いみじくも通底しています。

 本書の第4章では、人と繋がるための「聞く力」の重要性を強調し、それは幼児期からの家庭教育からすでに始まっていると、実例を多く示しながら紹介させていただきました。

 本書のアンケートに登場する、リーダーシップを発揮している学生やリーダーとして活躍しておられる方々が受けられた、この件に関する家庭教育を、少し抜粋します。

(以下『一流の育て方』より、抜粋)

【アンケート結果】
●相手の気持ちを汲み取ることが一番大事
 何を優秀と定義するかは人それぞれだと思うが、私は相手の気持ちを汲み取れることが一番大切だという教育を、親から受けました。そのためには、相手の立場に立って考えることをいつも心がけるようにと言われました。(某大学Tさん)
●人と良好な関係を築く楽しさを教わった
 自宅によく人を招いたり、近所の人たちと積極的な関わり合いを持つ両親だったので、人と良好な関係を持つことの楽しさや大切さについて、自然に気づけました。この体験のおかげで、幼稚園、小学校と世界が少しずつ広がっていっても、順応しやすいタイプになれたと思います。さらに成長して、学校とは違うコミュニティの中に入るようになっても、人の立場に立ったものの見方ができる自信が持てています。(大阪大学大学院工学研究科Iさん)
●考えを押しつけられると、対話する気がなくなる
 私の両親は安定した生活こそ幸せに繋がると考えていたようです。父は大学卒業以来、公務員として暮らし、母は専業主婦で、裕福とは言えないものの、しっかり子どもたちを養い、安定した生活を実現してくれました。
 もちろんそのことには感謝していますが、両親は私も自分たちと同じような人生を歩むべきだと考えていて、有名大学に進学して名の通った大企業に入らせようという教育に非常に熱心でした。
 進路について私が「経営規模にはこだわらず、自分のやりたい分野の企業に就職したい」と真剣に相談したところ、頭ごなしに「大企業に勤めるべき」と言われて、それ以来、両親とは対話をあきらめてしまいました。(東京工業大学大学院情報理工学研究科Kさん)


 コミュニケーション能力の育成とは、豊かな感性と人間性を磨く教育と密接に関わっているということがよく分かるものです。

コミュニケーション能力とは、相手を理解する能力である

 コミュニケーション能力には、相手の立場や考えを知る能力と想像力が欠かせません。

 実際に本書のアンケートで紹介している、リーダーとして活躍しておられる方々が親に感謝していることとして、「自分がされて嫌なことは、他人にするな」「他人の気持ちを読める人間になれ」「弱者の痛みがわからなければ信頼されない」等と教えられたことを挙げた人が非常に多かったのです。

 これらの「人間性を磨く教育」を、コミュニケーション能力を磨く章に入れたことは、いま振り返っても、妥当でした。コミュニケーション能力を磨くには、他者の感情や痛みを理解する能力と感性が必要だからです。