[東京 10日 ロイター] - 世界の主要自動車株のなかで、年初からのパフォーマンスが最も悪いのは日本だ。トランプ米大統領の保護主義的政策は、世界の主要各社共通の懸念だが、円高や日米貿易摩擦再燃への警戒から、日本メーカーの株価低迷が目立つ。現地生産化による雇用貢献など状況はかつてと異なるとの指摘もあるが、日米首脳会談前の不透明感も強く、積極的な買いは乏しい。

<日米欧で異なる動き>

トランプ大統領が薬品業界と並んでターゲットにしているのが自動車業界だ。メキシコ内の工場建設を批判し、米国内に工場移転を促すなど、激震が走っている。自動車メーカーとして最適な生産体制を阻害される懸念は各社共通だが、日米欧主要企業の株価パフォーマンスはかなり異なる。

昨年末から2月8日までの株価推移(現地通貨ベース、以下の表参照)をみると、堅調さが目立つのは米自動車株だ。3社ともプラスでFCA<FCHA.MI>は14.48%の大幅高。「トランプ氏が日欧の自動車メーカーに圧力をかけていることで、相対的にメリットを得るとの期待がある」(国内証券)という。

欧州の自動車株は、トランプ氏からメキシコ製自動車に35%の国境税をかけると脅された独BMW<BMWG.DE>が5.93%安、独メルセデス・ベンツ<DAIGn.DE>が5.74%安だが、独フォルクスワーゲン<VOWG_p.DE>は4.91%高。仏ルノー<RENA.PA>は1.08%安だが、仏プジョー・シトロエン<PEUP.PA>は11.07%高とまちまち。

それに対し、日本の自動車株は、マツダ<7261.T>の18.99%安をワーストに、トヨタ<7203.T>は7.17%、日産<7201.T>が3.66%安、富士重<7270.T>が7.96%安。ホンダ<7267.T>やスズキ<7269.t>などプラスの企業もあるが、平均騰落率でみて日本が日米欧の中で最も悪い。

欧州の自動車株と比較しても株価の下落が激しい理由は、円高と日米貿易摩擦への懸念だ。「自動車に関するトランプ大統領の発言をみると、30年前の状況を基にしているかのようだ。今や中国が貿易赤字の過半を占めるとはいえ、日本の自動車メーカーは依然として『悪者』との認識なのだろう」(外資系証券エコノミスト)という。

<「トランプ砲」に警戒>

30年前と違い、米国での現地生産化は進展。日本自動車工業会によると、日系自動車メーカーの対米輸出台数は、1985年の313万台から2016年には173万台まで縮小。その間、米国内での生産台数は29万台から384万台に膨れ上がっている。自動車関連の米雇用創出は150万人を超えている。

しかし、自動車に関しては日本の対米貿易黒字が減ったわけではない。2016年の日本の対米黒字額は、689億ドルと2位。中国の3470億ドルの20%足らずだが、黒字の中心は自動車。日本から米国への乗用車の輸出額が393億ドルだったのに対し、米国から日本への輸出額は5億ドルにとどまる。

市場では「日米首脳会談を前に、このようなデータが出てきたことはタイミングが悪い。トランプ大統領が日本に対し赤字削減の対策を要求してくる可能性もある」(藤本誠之・SBI証券シニアマーケットアナリスト)との懸念が強い。

米高官は9日、ホワイトハウスで10日に行われるトランプ大統領と安倍晋三首相との首脳会談について、為替操作に関する議論は優先議題ではないが、非公式に話し合われる可能性はあるとの認識を示した。

日米首脳会談を前に、対日強硬派のスタベノウ議員など米上院の超党派議員は、日本が不公正な自動車貿易を行っているとして、為替操作や非関税障壁の是正を迫るよう要望する書簡を、9日付でトランプ大統領に送っている。

「トランプ砲」のターゲットは、日本の自動車業界──。そうした懸念が株価の重さにつながっている。

<不透明感を嫌気>

ただ、足元の株価は悲観的過ぎるかもしれない。SMBC日興証券は1月13日付けでトヨタ、日産、ホンダの目標株価を上方修正。みずほ証券も1月中旬に、為替前提を円安方向に変更し、トヨタ、日産、ホンダ、マツダの目標株価を引き上げている。両社とも現時点で目標株価と投資判断に変更はない。

1995年に設立した世界貿易機関(WTO)では、貿易政策に関する紛争処理手続きが強化され、相手国の貿易政策に問題がある場合には、WTOの場で「白黒つける」ことがスタンダードになっている。1981年に開始された日本の輸出自主規制のような対応は、現在はWTOルール上、禁止されている。

国際貿易論や通商政策に詳しい学習院大学教授の椋寛教授は「WTOのルールの強化と紛争処理解決手続きの存在を考慮すると、少なくとも米国がWTOメンバーでいる限りは、80年代と同じような一方的な市場開放を迫るのは難しい」とみる。

米国がWTOから脱退した場合は、話が別だが「米国は自国が自由にできる代わりに、他国の最恵国待遇を失う」(椋教授)ため、その可能性は薄いという。

2国間の自由貿易協定(FTA)の可能性についても「基本的に現行制度よりも貿易障壁を高めるような内容のFTAを締結することは、WTO協定上できない」と、南山大学総合政策学部の小尾美千代教授は話す。

シティのグローバル株式戦略チームは、高い米国の売上高比率と低い現地生産比率の企業をMASU(Made Abroad and Sold in US)と呼び、国境税導入の悪影響を受けやすいと分析。一方、米国の売上高比率と現地生産比率がともに高い企業であるMUSU(Made in US and Sold in US)は、法人税引き下げの恩恵を相対的に受けやすいとし、日本企業はMUSUが多いと評価している。

だが、トランプ氏は大統領就任後早々に環太平洋連携協定(TPP)からの脱退を宣言するなど、強硬策の実行に躊躇(ちゅうちょ)はない。日米首脳会談で円安けん制発言が出れば、業績上積み期待は後退する。

こうした状況のなか、投資家も日本の自動車株には手が出しにくくなっている。「株の投資として中長期の不透明感が残っているセクターは買いづらい」(ソシエテ・ジェネラル証券・ディレクターの杉原龍馬氏)という。自動車をめぐる「トランプ砲」に気を抜けない日々が続きそうだ。

以下は日米欧主要自動車株の年初からの騰落率

(辻茉莉花 編集:伊賀大記)