郵便局に預けられた郵便貯金は、今なお財政投融資という「国債」を通じて、国によって使われている、ということである。

 つまり、国債という債券を買うということは、単に国にお金を貸している、ということになるのだ。そして、国債という名の債券を買ってもらうことで、国は現金を手に入れる。郵便貯金は、国の借金として国に使われているのである。松本さんは言う。

「いったいどのくらいの人が、自分が郵便局に貯金として預けたお金が国に流れて公共工事に使われているなどと理解していたでしょうか。個人のお金について、実はほとんどの人が、どうなっているのかわかっていなかったのではないか、と思ったんです」

 そしてこの「国債」、今や買っているのは郵便貯金だけではない。銀行も大量に買っているのだ。

 2008年秋のリーマンショックに端を発する金融危機後、日本では猛烈な勢いで預金残高が増えた。実に、毎月約一兆円の規模で拡大していったという新聞報道もあった。そして2009年6月には、国内銀行の預金額は過去最高の約573兆円に達していた。

 だがその一方で、企業や個人に向けた貸し出しはあまり増えていない。日本銀行が発表した2010年5月の国内銀行の貸出残高は、前年同月よりも約8兆円も減っている。預金残高が貸出残高を上回る「カネ余り」の額は、148兆円と過去最大規模になっている。

 では、流入した預金はどこに向かったのか。それが「国債」だった。郵便局だけでなく銀行も今、せっせと国債を買っている。国内の銀行が保有する国債の残高は、預金残高が急拡大していく2008年秋から急増し、2010年1月末には126兆円台という最高水準に達している。

 ホクホクなのは国である。財務省は2009年度の国債の新規発行額を当初予算ベースで44兆1130億円と計画していたが、これは1999年度の37兆5136億円を大幅に上回り、過去最大だった。政権は交代したが、不況で税収が落ち込み、歳出は膨らみ、結果的に2009年度の新規国債発行は、過去最大の53兆円台になった。だが、過去最大規模になっても、ちゃんと買い手がつく。だから、安心して国は国債を発行できるのである。

 そして銀行にすれば、国が元利払いを保証してくれる安全資産である国債は、不況で苦しむ企業に貸し出すよりも、実ははるかにおいしい運用先となる。国債を買えば利回りという「お礼」がつく。これが銀行や郵便貯金の利益に、もっと言えば預貯金金利の原資となる、というわけである。