「幸せ食堂」繁盛記
【第四四回】 2017年2月23日 野地秩嘉

日本酒とライスが自慢の洋食店、激戦区浅草にあえて開店

なぜ浅草に出店したか

 木村夫妻は浅草出身ではない。しかし、「洋食をやるなら浅草」と決めて、店舗を探した。浅草にはグリル・グランド、ヨシカミ、レストラン大宮と名のある洋食店が集まっている。競争の激しいところで研鑽を積みたいという主人の志は高い。

「浅草に店を出して正解だと思います。洋食に慣れていらっしゃるお客さんが多いんです。料亭、洋食店などがあった町だから、うちで食べるよりも、外食する方が多かったというんです。年のいった方が多いのですが、みなさん健啖家でよく召し上がる。他の町ではなかったことですけれど、帰り際にさりげなくチップを置いていく。ああ、昔から外食されている方たちはそういうのが礼儀なんだなあと……」

 木村夫婦は客に恵まれていると感謝している。そのため、食事が終わって出ていく客を必ず、表まで見送る。こうした積み重ねが顧客をつかむのだろう。

 一皿の量は多い。ポテトサラダ(600円)はひとりで頼むと、食べすぎになる。ナポリタン(1100円)の麺量だけれど、主人は「120グラム」と断言した。しかしながら、そんなものではない。それよりも多いと思われる。ひとりで立ち向かうボリュームではない。

 他のテーブルに届いたサーロインステーキ(2400円)、大アサリのガーリックバター焼き(1500円 バゲット付き)をちらっと見たけれど、大食漢向きだ。大アサリについてはひとりの場合はハーフポーションにしてくれる。 

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

野地秩嘉 

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。出版社勤務、美術プロデューサーなど を経て、ノンフィクション作家に。食や美術、海外文化の評論、人物ルポルタージュ など幅広く執筆。近著に、「TOKYOオリンピック物語」「イベリコ豚を買いに」「打 ち合わせの天才」「アジア古寺巡礼」「アジアで働く いまはその時だ」など。


「幸せ食堂」繁盛記

この連載は、味がよく、サービスも悪くなく、値段はリーズナブルで、しかも、できればハイサワーやホッピーを置いている店のグルメガイドだ。ここで紹介される店は、金持ちの社長やグルメ評論家はまずいない。著者は、そういう店を「勤労食堂」「国民酒場」と呼ぶ。そこでは客が微笑しながら食べている。ほほえみながら食べている人と一緒にいることは至福だ。人生の幸せは勤労食堂もしくは国民酒場にある。

「「幸せ食堂」繁盛記」

⇒バックナンバー一覧