「積極的な休息」がパフォーマンスを高める

久賀谷 雑念のある状態が全面的に悪いというわけではないし、集中力を高めるにしても、ただじっと座るのではなく、身体を動かすなどのアクティブな状態が望ましいのではないかというお話をいただきました。
一方で、『最高の休息法』が主題にしているマインドフルネスでは、「心をさまよわせずに“いまここ”だけに注意を向けなさい」と伝えています。「心がさまようのを良しとする発想」とはまた違った価値に注目しているわけですね。

斉藤 そういうことだと思いますね。

久賀谷 ずっと何かをグルグルと考え続けている状態は、効率がいいようでじつはそんなことはない。マインドフルネスの流行も、そうした気づきのなかから生まれてきたのかもしれませんね。

斉藤 健康な身体をつくりたければ、有酸素運動と無酸素運動を交互に行うなどの工夫が必要なのと同じように、脳の動かし方にもメリハリが必要だと思います。

久賀谷 脳を意識的に休ませている状態と、積極的に頭を回転させている状態、その緩急を自覚的にコントロールできる人こそが、本当の意味で脳をアクティブに働かせている人なんでしょうね。

「ただ休むだけ」だと、脳のパフォーマンスは高まらない

斉藤 一方、イェールで比較政治経済学をやっていたころ、数式とにらめっこしながら丹念に定理を証明していても、休憩時には完全に頭を休ませるのではなく、軽い読書などを入れていましたね。そのほうが、すぐに本論に戻れるのです。

久賀谷 それについては面白い話がありますよ。先日、著名なフィジカルトレーナーの方とお話をする機会がありました。彼によれば、いま、アスリートのあいだでは「休みながら鍛えること」がトレーニングのトレンドにあるそうです。「アクティブ・レスティング」つまり「積極的に休む」という発想ですね。当然のことながら、アスリートたちは毎日大変な運動量をこなしています。そんななかでも休養日はあるわけですが、そのときにも「完全にオフ」にするのはよくないのだそうです。

斉藤 ある程度、運動率を維持しながら休むということでしょうか?

久賀谷 はい、そうなんです。きちんと身体を休めることは欠かせないのですが、その休みは「まったく動かない」という意味ではないんですよね。アスリートたちに、休日は最大心拍数の50%くらいで走るように促しているそうです。そのほうが、まったく動かないでいるよりも、酸素や血液がうまく循環し、老廃物を適切に排出できるそうです。

斉藤 身体の休め方と脳の休め方にも、多くの共通点がありそうですね。

「ただ休むだけ」だと、脳のパフォーマンスは高まらない