「ジャパネットたかた」がブレークしたのは、商品の機能を丁寧に説明したからではなく、その商品を購買したら消費者の暮らしがどう変わるかを、情熱的に説明したからだ。

 ビジネスは、顧客に価値のあるものを提供して対価として金銭を得るが、双方に利益がなければビジネスではない、と髙田氏は考える。自分が売る商品は、お客さまの生活を必ず豊かにする、その強い思いがテレビという現場で独特のテンションを生み出した。

 普段の髙田氏は画面の中と違い、それほどテンションは高くない。だがテレビカメラの前に立つと、意識していないのに「あの声」になってしまったという。

 「コミュニケーションで最も大切なことは、『伝えること』ではなく『伝わること』だと思います。テレビショッピングをやっていて、それをひしひしと感じました。伝えたいことが伝わっていなければ、お客さまの心は動きません。それは夫婦でも親子でも、会社の人間関係や政治の世界でも同じこと。自分の気持ちがきちんと伝わっていなければ、いい関係は築けない。伝えたつもりでは駄目なのです」

 そのために必要なのは、情熱だという。商品の魅力を伝えたいという思いが本当に強ければ、自然とテンションが上がり、その思いは必ず消費者に届いたという。

事業承継は覚悟が必要、
大切なのは「不易流行」

 髙田氏が社長を退任したとき、周囲からは「まだまだやれる」「会長職に残っては」という声が多かった。だが経営者としてはキッパリと引退、会社経営は長男に託した。

 「現在の新体制や、若手社員たちの成長を見ていると、引退は正解だったと思います。事業承継の秘訣は何かと問われたら“覚悟”であると答えます。承継に不安を感じない経営者はいません。しかし不安がなくなるまで待っていたら、承継など永遠にできません。不安があれば逆に次世代への期待もある。その期待に託すという覚悟が必要なのです」

 期待が不安を超えたときが、事業承継のタイミング。そのタイミングを適切に判断することが経営者には求められる。その判断と覚悟ある行動が、企業を持続させる力になる。

 髙田氏が、事業承継で大切にしたのは「不易流行」という言葉だった。

 「企業にとって一番大切なのはミッションです。ジャパネットたかたのミッションは、人を幸せにすること。この理念だけは絶対に変えてはならない。それが“不易”の部分。後は時代の“流行”に合わせて、企業はどんどん変わっていっていいと思います」

ダイヤモンド経営者倶楽部とは

ダイヤモンド経営者倶楽部は日本経済の活性化に貢献する趣旨の下、次世代産業の中核を担う中堅・ベンチャー企業経営者の方々の多面的支援を目的として設立。ダイヤモンド社の80周年プロジェクトとして1993年に創設された。現在の会員数は約500人。成長意欲の高い魅力的な経営者が集う“場”を提供する日本有数の経営者倶楽部として高い評価を得ている。