理想は、需要が供給能力を超えそうな場合にのみ電気の単価が上昇することです。技術的に可能であれば、供給能力の80%を超えたら2倍、90%を超えたら3倍などと段階的に単価を上げることによって負担増を限定しつつ柔軟な需要コントロールが可能になります。

 それができないとしても、季節が限定されていることも柔軟な調整を可能にします。電力不足が予想される夏季に東京を一時的に離れて旅行に行くことも、電力不足問題解消に大きく貢献することになります。夏休みは学校も休みです。会社員の人が有給休暇をなるべく電力が不足する期間にとって、家族と一緒に東京電力の管内を離れた場所で過ごすことはそれほど難しくないはずです。

 電気を使わなければ単価上昇の負担はほとんどなく、前回の記事で提案したキャッシュバックの分だけが受けられるので大きなメリットを享受できるはずです。

【緊急提言】<br />「夏の大規模停電」を避けるための<br />行動経済学的方法〈後編〉[図2]季節と時間帯を限定した料金単価上昇によって生じる、ピーク時間帯からの需要シフト

 電気料金3.5倍という数字は「電気使用が価格上昇に対してあまり反応しない」という過去の調査結果に基づいていますが、この結果は対象となる価格上昇が特定の時間帯に限定されないものだったことに注視する必要があります。使用時間を料金の安い時間帯にシフトさせることができなければ、電気使用が価格上昇に対してあまり反応しないのは当然です。

 料金単価の引き上げをピーク時だけに限定すれば必要な値上げ幅はずっと小さくなるはずです。値上げされる時間帯も限られ、値上げ幅も小さければ、電気の使用を減らすことができない消費者や企業の負担増もそれほど大きくはならないはずです。