「新しさ」だけがイノベーションではない

「イノベーション」の意味を正しく理解すると<br />仕事の見方・考え方が大きく変わる坪井賢一(つぼい・けんいち)ダイヤモンド社取締役、論説委員。
1954年生まれ、早稲田大学政治経済学部卒業。78年にダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集部に配属後、初めて経済学の専門書を読み始める。編集長などを経て現職。桐蔭横浜大学非常勤講師、早稲田大学政治経済学部招聘講師。主な著書に『複雑系の選択』(共著、1997年)、『めちゃくちゃわかるよ!金融』(2009年)、『改訂4版めちゃくちゃわかるよ!経済学』(2012年)、『これならわかるよ!経済思想史』(2015年)、『シュンペーターは何度でもよみがえる』(電子書籍、2016年)(以上ダイヤモンド社刊)など。最新刊は『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』

 また、最先端の分野だけがイノベーションを生むわけではない。アメリカのダートマス大学教授ビジャイ・ゴビンダラジャン(1949~)は、先進国のイノベーションが新しい市場をつくって生活を豊かにし、やがて途上国へ新商品が流れていく、という常識を逆転(リバース)させたイノベーションを発見した。これをリバース・イノベーションという。

 ゴビンダラジャンが著書で紹介しているリバース・イノベーションの実例はいろいろある。たとえば、アメリカの大手スーパーのウォルマートは、中央アフリカや南米で最初に投入した小型ストアのスタイルをアメリカへ逆輸入している。

 また、GEヘルスケア(アメリカの医療機器会社)は、インドで開発して販売した携帯心電計を先進国へ広げた。このインド発の心電計は電池式の簡易なもので、なにより安い。途上国で得たマーケティングの知識と製品開発のノウハウを先進国へ持っていく、という逆転のイノベーションである。

 ここまで説明してきたとおり、「イノベーション」といってもさまざまな方向性がある。経済学的に正しい理解を得ておけば、さまざまな視点で物事を観察でき、新しいビジネスチャンスを見出すことができるようになるだろう。

 また、イノベーションの他にも、ビジネスでよく使われる言葉で正しく理解されていないものは多い。たとえば、「比較優位」についても、誤用が多い言葉のひとつだ。しっかりとその意味について学んでおくと、ビジネスでの良質な思考につながる。より詳しく学びたい人は、ぜひ拙著『会社に入る前に知っておきたい これだけ経済学』を参考にしてほしい。