マネジャーには自社事業の専門技能はいらない、という考え方に一石を投じる研究結果が発表された。従業員の職務満足度は、「自分の仕事を上司が代わりにできるのか」に大きく左右されるという。


「人は嫌な仕事を辞めるのではなく、ダメな上司の下から去るのだ」という、古くからの格言がある。

 我々の研究によれば、この言葉は真理を突いている。従業員の職務満足度を最も左右するのは上司であり、我々が測定した他の諸要因をはるかに凌いでいるからだ。

 では、優れた上司の条件とは何だろうか。リーダーに関する研究の多くは、リーダーシップのスタイルやカリスマ性に注目する。しかし我々が調べたかったのは、上司の「専門技能のレベル(technical competence)」が従業員に及ぼす影響だ。つまり、上司は会社の中核事業に関する真のエキスパートであるかどうか、その分野の専門技能をどれほど持っているか、である。

 上司の能力というものは、多面的に見るべきだ。我々は以下3つの観点から測定した。

●上司は、必要な場合に部下の仕事をみずから実行できるか

●上司は内部昇進で現在の地位を築いているのか

●他の従業員の評価による、上司の専門技能

 これら3つの指標を基に上司の能力を測定したところ、次のことがわかった。上司が自社事業の中核業務に関する深い専門技能を持っている場合、その部下は職場での幸福度が圧倒的に高いのだ(英語論文)。

 この結果は、優れた上司に関する一般的な通念を見直す必要性を示唆している。エンジニアを他のエンジニアの上司に、あるいは編集者を他の編集者の上司にするのはよくない、という主張はしばしば聞かれる。その論調によれば、優れたマネジャーに専門技能は不要であり、それよりもカリスマ性、組織をまとめる力、心の知能といった諸々の特性を兼備しているべきだという。

 それらもたしかに大事ではある。しかし我々の研究が示すのは、専門技能の保有という見過ごされがちな特性もまた、非常に重要であるということだ。