医療の世界では、患者にバッドニュースでも告知するのが常識になりつつあります。「インフォームド・コンセント」とは、患者にとってどれだけ辛い情報でも伝えたうえで、患者も納得して治療を進めることです。真実を伝えると患者はそのときは混乱したとしても、時間や周囲のサポートが助けとなり、それなりに受け入れるものです。養子縁組の世界でも、いまは引き取った子どもに真実を伝えるのが条件になっています。

 ごまかしからは、何も生まれないし、始まりません。

 リーダーには、悪いことを伝える役割があります。菅総理は、震災直後に「あの震災を機に日本は立ち直ったと言われるように頑張りましょう」と言いました。振り返るには早過ぎると言わざるを得ません。そして、国民はまやかしを聞きたいわけではないのです。

 もちろん、悪い現実を簡単に受け入れられるほど人は強くありません。混乱し、不安になるのは当然です。そのため、この連載の1回目でも書いたように、精神の安定を保つためには、一時的にも現実逃避が必要です。

 現実を直視するのは辛いものです。それほど現実が辛ければ、現実逃避が自分を守るために有効になりますが、その後は現実と向き合うことがどうしても必要になります。それは時間をかけてでもいい。後回しにしてもいいですが、いつかそれと向き合うことになる覚悟はしておいたほうがいいかもしれません。

震災前からやっていたことを継続しよう

 被災地で、自分以外の家族四人を亡くした高校三年生と出会いました。

 彼は大学に合格していて、入学を待っているときに震災に遭いました。傍から見ると、一瞬にして人生が変わってしまった。しかし、奨学金が出ることがわかり親戚の家から通えることにもなったので、この高校生は、大学に行くことにしたといいました。