竹内氏が大切にするのは、編集者とのやりとりだという。編集者とどのように議論して、ともにつくりあげていったのか。当時を思い出すように、丁寧に、語ってくれた。

 難しかったのはカバーです。編集者のリクエストは、上下巻なので、二冊並んで一つに見えるように、かつ一冊ずつしっかりと差別化されていること、という合い矛盾する内容でした。2冊で一つに見えるというのは、言い換えると2冊並んだときに「このシリーズは3冊あるかもしれない」という見え方がしちゃいけないんです。ここは「ドラッカー名著集」とは大きな違いです。

編集者や著者の先に、読者がいる『ビジネス統計学』上下巻とボツになった装丁案の一部。これだけ案を出すことも珍しいが、なんとこれ以外にもまだ多くのボツ案があったという。(拡大画像表示

 このときはラフ案を随分たくさん出したのを覚えています。通常は3案程度が多いのですが、このときは10案以上出したのではないでしょうか。この中から編集者と一緒に絞っていき、現在のデザインに落ち着きました。このリンゴをモチーフにしようというアイデアは、僕が出したのか編集者からだったのか覚えていないですね。一緒になって考えたという記憶です。

 あえてビジネスと関係ないリンゴを持ち出したのは、ビジネスをモチーフにしたグラフやオフィス街を持ち出しても、カバーから受けるイメージが広がらないからと考えたからです。書名で「ビジネス」が入っているので、そこから少し離れ、かつ統計では「リンゴがいくつ、みかんがいくつ」という喩え話にも使われるので、モチーフにいいかなと思いました。

 また両者の見分けについては、上巻を赤リンゴ、下巻を青リンゴとすることで、赤が上巻、緑(青リンゴの色は緑)が下巻というように一目瞭然となりました。編集者は「これで平台に揃えて置いてもらえる」と喜んでいました(笑)。

 こちらがラフ案を出した後、編集者と一緒に悩むのが好きですね。本は編集者が方向性を決めるものなので、それに沿うような仕事をしたい。いつもそう思っています。編集者がデザイナーとしっかり議論する前に、営業の人や上司に意見を求めて、最終案が決まっていくようなやり方は、あまり好きじゃないですね、生意気ですが(笑)。