投資から人々の目を遠ざける政策

 貯蓄奨励ともうひとつ、松本さんが捉えた国のメッセージがあった。それが、投資というものから人々の目を遠ざけたい、という政策によるメッセージである。国民は貯蓄だけをしっかりしていればいい。それ以外には目を向けてはならない。ましてや株式投資などまかりならん……。それをあからさまに表現したかどうかは別にして、 〝裏側〟のメッセージは、はっきりあったように思えたという。

「たとえば、かつて株式投資というのは、委託売買手数料が取引額の1パーセントも必要だったんです。これが法律で定められていたんですが、今から考えると本当に信じられないくらい高い手数料なんですね。50万円の株を買えば、一回の売買手数料が5000円もかかるんですから。しかも、買うときだけではなく、売るときにも必要になる。さらに売却には、有価証券取引税までかかりました。これだけの手数料や税金がかかったのでは、株式投資をやろうと考える人はものすごく少なかったでしょう。まるで国民に株をやらせないための手数料体系であり、税制だったのではないかと思えるくらいです。一方で、それだけの手数料を取っていれば、証券会社の経営は安泰だったと思います。個人投資家の人数は少ないけれど、会社はやっていける。そういう構造がつくられていたということです」

 実は戦後の一時期、財閥解体などで多くの財閥や企業グループの株式が、持株会社からマーケットに放出された。その引き受け手となったのは、一般の個人だった。もしかすると、それが戦前の〝普通の〟日本人の感覚だったのかもしれない。1949年には、全株式の約70パーセントを個人投資家が持っていた。そういう時代があったのである。