アラブ 2017年2月28日

教えて! 尚子先生
トランプ大統領はなぜ、イスラム諸国からの移民の
入国を阻止しようとしているのでしょうか?【中東・イスラム初級講座・第39回】

アメリカのトランプ大統領就任後、次々と発せられる大統領令。なかでもイスラム7カ国への入国拒否は、世界中の人を震撼させました。ではなぜ、この7カ国が選ばれたのか。日本では珍しい女性の中東研究家として活躍する岩永尚子先生が、アメリカの調査機関のアンケート結果から分析します。

 イスラム諸国7カか国の国民のアメリカへの入国禁止令(90日間)という、トランプ大統領が就任直後の1月27日に出した大統領令は、主要な空港で市民によるデモが多発するなどかなりの混乱を招いているかのようにみえました。

 日本でニュースをみていると、「多くの人々が入国禁止令に反対しているんだなぁ、移民の国だからけっこう危機感を感じる人も多いみたいだな」という印象がありました。

 ところが、デモの映像が流れ、まだまだ混乱のさなかにあるにもかかわらず、アメリカの民間のアンケート調査機関が、この大統領令に対する賛成が57%であったと発表しました(第一報は1月31日のロイター通信の賛成49%、反対41%、次がラスムセン社の賛成57%、反対32%、モーニング・コンサルト社の賛成55%、反対38%。一方、異なる結果としては、ギャラップ社賛成42%、反対55%、CNN賛成47%、反対53%など)。

 アンケート調査のこれらの数値とニュースの映像との差異に違和感を覚え、いったいどっちが正しいの?と疑問に思われた方も多かったことでしょう。

 大統領選挙中に、ヒラリー・クリントンを応援していた人々が、この大統領令に対しても引き続き反対に回っている可能性が高いため、どちらのアンケート結果が正しいのかは、調査対象者の選び方によってかなり変わってきそうです。

キリム商人/ケミセット, モロッコ【撮影/安田匡範】

入国禁止措置7カ国はなぜ選ばれたのか

 そもそも入国禁止措置が取られたイスラム諸国7カ国がどこの国なのかというと、イラク、イラン、シリア、イエメン、ソマリア、スーダン、リビアです。イランを除くと混乱状態にある国々ばかりで、この7カ国の出身者で入国許可をとることのできる人はかなり稀な富裕層かと思われます。

 それでは、過去にこの7カ国の出身者が、テロの容疑者となっていたのでしょうか。近年のアメリカの無差別大量殺人事件の犯人とされている人たちのなかに、上記7カ国の出身者は存在していなかったそうです。2001年の同時多発テロでの実行犯も、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、エジプト、レバノン出身者で上記の7カ国の出身ではありませんでした。

 アメリカのシンクタンク、ニュー・アメリカ財団によれば、むしろ、無差別殺人の犯人の82%はアメリカ国籍もしくは永住権を持つ市民であったそうです。さらに、こうしたテロに巻き込まれて死亡する確率はかなり低く、通常の何らかの事故に巻き込まれて死亡する確率のほうが253倍も高いとの調査結果もありました。

 なのに、あえてなぜ大統領令にこの7カ国が選ばれたのか、しかもなぜ「イスラム」諸国と「宗教」別に分けられているのか、気になるところです。

 意地の悪い見方ですが、「これがイスラム諸国7カ国でなく、たとえば中南米の国が一つでも入っていたら……もっとデモが大規模になったのでは?」という疑問さえ生じてしまいます。

 2001年の同時多発テロの直後には、イスラム教徒に対する嫌がらせやヘイトクライムが増加したと指摘されていました。ヨーロッパではシリアの内戦によって、大量の移民という火急の問題を抱えることになり、移民や難民を排斥しようとする動きがみられています。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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