②については、病院へ入院するときや老人ホームや介護施設へ入所するときに「保証人」(あるいは身元引受人)を求められる場合があることから、任意後見人に依頼されることがあります。しかし、任意後見人が保証人を引き受けることはできません。なぜなら任意後見人とは、本人から代理権を委任された「本人の代理」であり、いわば「本人のようなもの」です。したがって、「本人」が本人の身柄を保証する「保証人」にはなり得ないのです。

 ところが、本人が親族と遠く離れて暮らしていて、本人の身近に親族がいない場合、任意後見人に保証人が頼めるのなら、任意後見契約を結びたいという人がときどきいます。病院や介護施設が保証人を求める主な理由は、費用の支払いを確保するためです。病院等に保証人を求められた場合は、任意後見契約が結んであり、先に述べた遺言書が作成してあること、費用の問題はまったくないことを説明すれば、たとえ保証人がいなくても入院や入所を断られる理由はありません。

 ③については、現時点では一般に成年後見人には、医療行為についての同意権はないとされています。②の場合と同様に、医療行為への同意書にハンコを押してもらう人が必要で、それを後見人がやってくれることを期待して、任意後見契約を結ぶというのは筋違いと言えましょう。

 ただし、成年後見制度を研究している「成年後見法学会」では、成年後見人にも委任者である被後見人に対する医療行為についての同意権を持たせるべきであると主張しています。

契約は、いつ、
どんな条件でスタートするのか?

 任意後見契約は契約締結したからといって、すぐには発効しません。本人の判断能力の低下が著しくなってきたと周りの人たちが感じた段階で、通常、家族や任意後見受任者が家庭裁判所に「本人の判断能力が低下してきており、任意後見をスタートさせたいので『任意後見監督人』を選任してください」という申し立てをします。これを受けて、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で、契約が発効となり、後見人による後見事務がスタートします。

 任意後見監督人とは、任意後見人が財産を勝手に使いこんだりしないように、業務内容について任意後見人から適宜報告を受け、監督する役割を担います。通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任されます。