ドイツ人は1986年産のワインを飲みたがらない、という話をドイツに住んでいた金融市場関係者から聞いた。チェルノブイリ原発事故があった年だからだ。風評リスクが一度高まると、そのイメージを変えることは容易ではない。

 浮世絵「冨嶽三十六景:凱風快晴」(通称“赤富士”)は海外でもよく知られている葛飾北斎の代表作の一つである。英国の有力な政治経済誌「スペクテーター」4月16日号は、この北斎画をアレンジした「Mount Fuji 2011」というイラストを掲載していた。

 雄大な赤い富士山の稜線に満月がかかっているかのように、黄色い原発マークが輝いている。経済産業省原子力安全・保安院が福島第1原発事故の国際原子力事象評価尺度をレベル7に上げたことを受け、同誌はこのイラストを載せた。残念なことに、海外では、原発事故は富士山と並ぶ日本の象徴になってしまった感がある。

 先日の欧州出張時に会ったロンドンのある著名エコノミストは「なぜこのタイミングでチェルノブイリと同じレベル7になるのか?」とその判断を不思議がっていた。もともと金融市場関係者は原発事故の評価尺度の根拠をよく知らないので、レベル7の妥当性を議論するつもりはないようだ。しかし、「日本政府はじつは何か隠してきたのか?」という疑心暗鬼が海外で広まりやすくなっている。