[東京 10日 ロイター] - 金融市場で、奇妙な現象が起きている。強めの経済指標が出ても株価が上がらず、米利上げ観測が高まり長期金利が上昇してもドルの上値が重い。

金融規制緩和や税制改革、インフラ投資などトランプ米大統領の政策にこれまで好意的に反応してきた市場が、予測が難しい同大統領や政策の不完全実施に警戒感を強め、マネーフローの潮目が変わる前兆ではないかとの指摘が市場参加者から出始めている。

3月1日に史上最高値を更新したダウ<.DJI>は、その後5日間続落。8日に2月ADP全米雇用報告が市場予想を大きく上回る強い結果になったにもかかわらず下落した。

米連邦準備理事会(FRB)が14―15日の連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げに踏み切るとの観測が広がる中、米10年国債利回り<US10YT=RR>は約3カ月ぶりの高水準だが、足元のドル/円<JPY=EBS>はトランプ氏の大統領選勝利後に付けた高値118.66円にははるかに及ばない。

<高まる不確実性と株価>

立ち尽くす金融市場の背景には、トランプ政権の発足後に広がっている幅広い分野での不確実性があるとの見方が出ている。

世界有数のヘッジファンド、バウポスト・グループの創業者のセス・クラーマン氏は、ロイターが確認した投資家向けのニュースレター(1月20日付)で「トランプ氏は衝撃的に予測不可能であるばかりか、明らかに故意にそうしている。プランの一部だと自身も認めている」と指摘した。

しばしば矛盾する主張を繰り広げるトランプ氏は「投資家が嫌う高ボラティリティーそのものだ」と評し、「非常に危険なほど高い株価」の行く末に警鐘を鳴らす。

中長期的には、トランプ政権の財政政策がインフレを招き、米経済を衰弱させる巨大な国家債務を残すことになるとし「事態が暗転すれば、ドル覇権の長期的な退潮が始まり、金利と物価が急上昇し、世界中で不平不満が広がる状況を招く恐れがある」と同氏はみている。

<通商政策の暗雲>

「自由」かつ「公正」な貿易を目指して2国間協議に軸足を移すトランプ政権。米通商代表部(USTR)は1日、通商政策報告書を議会に提出し、世界貿易機関(WTO)の紛争解決手続きが不利益になる場合は「従うことはない」と表明した。

サマーズ元米財務長官は1月3日、ブルームバーグとのインタビューで「世界で中心的な役割を米国が担っていることを考えると、保護主義的な貿易政策への転換は、前例をみない重大な不確実性をもたらす問題であるはずだが、市場はこの点を完全には認識していないようだ」とした。

独バーデンバーデンで17―18日に開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を前に、ロイターが入手した共同声明草案では、米国の意向が色濃く反映され、G20が10年以上使用してきた「あらゆる保護主義に反対する」との文言が削られ、代わりに「公正で開かれた国際通商システムを維持する」が入った。

S&Pグローバルのチーフエコノミスト、ポール・シェアード氏は8日付の日経新聞で「大きなリスクは『公正』を確保する試みが暗礁に乗り上げ、政権ひいては世界が1930年代のような保護主義への道を歩んでいくことだ」とした。

日米両政府は2月の首脳会談で、経済対話の創設で合意し、4月にも初会合を日本で開く段取りだ。

元財務官の渡辺博史・国際通貨研究所理事長は2日、経済対話で金融政策に注文がつく可能性は低いとしつつも「かつての日独機関車論のように日本が財政出動を求められる可能性はある」と予想した。

トランプ政権の貿易政策を立案する国家通商会議(NTC)のナバロ委員長は対日貿易赤字を削減するため、日本に米国製品の購入を求めることを明らかにした。

米国からの通商面での圧力は、為替市場では「ドル安」を連想させ、ドルの上値を重くしている。

<ほんの束の間>

株式市場では、減税やインフラ投資の景気刺激効果に目を奪われた投資家の熱狂は、2月末のトランプ大統領の議会演説後のダウ300ドル高で一巡したとの見方もある。

他方、トムソン・ロイター傘下の投信情報会社リッパーが9日に公表した週間ファンド資金動向では、3月8日までの1週間に米国を拠点とする株式ファンドに85億ドルの資金が流入し、6週連続の流入超となった。

ただ、ダウは同じ週に高値2万1169ドルから390ドル超の下げ幅を記録。個人や年金による買いと、株価指数の値動きは必ずしも一致していない。

米国の保護主義は、オートメーションとグローバリゼーションの波を一時的に食い止めるかもしれないが、非効率で競争力のない企業を支援したところで、市場の力に抗することができるのは「ほんの束の間」にすぎない、とクラーマン氏は予言する。

(森佳子 編集:田巻一彦)