今期3期ぶりに黒字化し、業績回復を果たした日本マクドナルド。その要因の一つに卓越したマーケティング戦略があった。その一端を担ったのが、若干34歳、ナショナルマーケティング部部長の唐澤俊輔氏。同社が実践した「広めていただく」マーケティングについて、事例とともに紹介してもらう。第1回は、ポケモンGOとのコラボ企画について。

消費者に「広めていただく」マーケティングとは

 昨年の年末、都内の地下鉄でユニークな宣伝を目にした。ディズニーリゾートが展開する、電車内のラッピング広告である(写真①)。曇った窓ガラスに指で文字を書いたような広告である。これは、曇ったように見せているだけで、実際には曇っていない。通常、広告がない窓ガラスがこのようになっているので自然と乗客の目を引く。そして多くの乗客がそれに気づき、「かわいい!」と話しながら、一生懸命にスマホで写真撮影をしていた。この広告効果は計り知れない。

写真①

 今どきの電車内では80%の人がスマホを見ていると言われ、電車内広告のリーチは低下している。ここで、このディスニーリゾートのケースのリーチ効率を考えてみよう。仮に、この電車広告が100万人にリーチし、そこに1000万円の媒体費を支払ったとする。その場合、1リーチあたり10円という計算になり、テレビCMやデジタルバナーと比較すると決して効率がいいとはいえない。しかし100万人の乗客のうち、20%の人が写真に撮ってSNSにアップしたとしよう。1人当たり平均100人のフォロワーがいるとしたら、100万人(リーチ)×20%(撮影率)×100人(フォロワー)=2000万人へのリーチとなる。2000万人へのリーチの媒体費が1000万円となると、1リーチのコストは0.5円。これがいかに効果的か、分かっていただけるだろう。

 この例では、SNSでの拡散効果を加味すると、20倍も費用対効果が高くなる計算になる。

 しかも、この事例ではリーチの効率のみならず、「ディズニーってかわいい!」というブランドエンゲージメントにも大きく寄与しているのだ。これは単に2000万人にリーチした以上に、それぞれの生活者の想いを込めたメッセージが併せて伝えられたことで、その効果は計り知れないのだ。

 このように、われわれがユーザーへの認知を広げるとき、SNSがもつ圧倒的なインパクトを見逃してはならない。私が属する日本マクドナルドでも、この効果を重視しており、「広めていただく」マーケティングを実施している。この連載ではその事例を紹介したい。今回は、昨年話題となったポケモンGOとのコラボである。