3期ぶりに復活を遂げた日本マクドナルド。その裏で実践された「広めていただく」マーケティングを紹介する連載2回目。今回は、PRで拡散した「マックの裏メニュー」の仕掛けを紹介してもらう。
※第1回はこちら

「マックの裏メニュー」の裏側

「マックの裏メニュー」をご存じだろうか。たとえば、てりやきマックバーガーにハラペーニョをトッピングしたものを「裏てりやきマックバーガー」と名付け、それらトッピングを加えたものを「裏メニュー」商品として展開したプロモーションである。なぜ、トッピングをわざわざ「裏メニュー」として販売をしたのか。今回はこのようなマーケティングの裏側をご紹介したい。

唐澤 俊輔(からさわ・しゅんすけ)
慶應義塾大学法学部卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社。史上最年少(28歳)で部長に抜擢され、2015年には社長室長として全社の変革に貢献。2016年1月より、ナショナルマーケティング部長として、新商品のプロモーション活動や、メディア・アライアンスの企画・実行に責任を持つ。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。グロービスマネジメントスクール講師。共著に『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)。

 マクドナルドは、主に期間限定の新商品プロモーションにより、来店を促進し売上を伸ばしてきた。売上の多くは既存商品であるものの、それをプロモーションしても売上げはあまり大きく動かないからだ。新商品を展開しそのニュース性によって売上を伸ばしていくというのは、多くの企業でも同様だろう。しかし、やはり通常販売している既存商品こそがロイヤルユーザーを生み、会社の売上と利益を支えているのも事実である。だとしたら、売上インパクトを出しづらいという課題はあるものの、既存商品にフォーカスしたマーケティング活動にチャレンジしようと動き出したのが、担当するプロジェクトチームであった。

 当初チームは、代表的なレギュラーメニュー数品に、トッピングを加えることで利用喚起するキャンペーンを企画していた。しかしながら、この施策は既存商品にトッピングを付け足すだけに過ぎず、メディアにリリースをしてもニュース性がなく記事にはなり難い。トッピングは、マクドナルドとしては新しい試みではあったものの、他のハンバーガーショップでは実施しているところもあるため、業界的な目新しさはさほどないからだ。

 こうした課題に対応すべく、数品だけでなく全てのバーガー商品に対し、どのトッピングも自由に3つまで組み合わせて載せられるよう、チームは企画を変更した。こうすることで、「決まったレシピで効率的に提供するファストフード」の代表格であるマクドナルドが、「お客様の好みに応じて自由にカスタマイズできるようになった」という、今までにない新しいニュースとしてメディアに発信したのだ。つまり、単なるトッピングだったはずの企画が、世の中に影響を与える価値あるニュースへと進化したと言える。

 さらに、このキャンペーンを「マックの裏メニュー」と名づけるというアイデアを、広告代理店さんからご提案いただいた。「裏メニュー」という言葉は一般的に、知る人ぞ知る「隠れたメニュー」を意味しており、つい食べてみたくなるという期待感を醸成することができる点で、非常に効果的とチームで判断し決定した。こうして、メディアに記事としてキャッチーで書きやすいメッセージを提供するとともに、「選べる組み合わせは285種類」と数字をあえて打ち出すことで、カスタマイズできる自由度が高いことを端的に伝えたのだ。数字はメディアが記事に掲載する上で、使いやすいものなので、できるだけ用いるよう私自身も意識をしている。

 このようにして、「トッピングを提供する」という企画は、「今までにない新しい裏メニューが登場した」という全く異なる大きなニュースとして世に打ち出したのであった。