いったい誰のためのプロジェクト?!

「これまでにやった商工会のプロジェクトは、手間ひまばかりかかって、ちっとも売上げが増えなかった。皆の看板商品を詰め合わせて、箱だけ新しくするのが手っ取り早いのと違うか」

 やるだけ無駄とばかりの態度に、言葉が出なかった。次の訪問先では、店主が面倒くさそうに言った。

「自家製の餡? そんな手間がかかること、無理や」

 和菓子の差別化は餡が肝心なのでは、という話をしたところ、餡は外部の業者から買っているので難しい、とのことだった。では、餡づくりの専門家を招いてアドバイスを受けられれば自家製の餡づくりに取り組んでもらえるか、と尋ねたところ、それも無理だというのである。

 菓子事業者を数社回ってみたが、せっかくプロジェクトの予算もついて、新しい技術を学べるチャンスだというのに、誰も関心を示さなかった。

 聞き取り調査の翌日、さぬき市商工会の永峰指導員を訪ね、感じたことを率直に話した。永峰氏は、今回のプロジェクト運営の実務を任されたベテランの指導員だ。

「どうしてこんなにモチベーションが低いのでしょうか? 自分たちの町おこしだというのに」

「だいたいいつも、そんなもんですよ」。淡々とした永峰氏の答えに、私はつい、声を荒げた。

「東京から通う私がサポートするには、限界があります。実際に手を動かすのは、お菓子事業者さんです。彼らの心に火が付かない限り、決していいものはできません」

 商工会も同様である。地元事業者と長年の付き合いのある永峰氏に、事務局として相当頑張ってもらわないと、成功はおぼつかない。そう強くお願いしたが、返ってきたのは頼りなげな返事だった。

 私はとんでもない案件を引き受けてしまったのではないか。早くも後悔の念が頭をもたげてきた。