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ソーシャル グローバルトレンド
2017年3月21日
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武邑光裕 [クオン株式会社 取締役 兼 ベルリン支局長]

Nikkei(日系)料理の躍進と消え行く和食、グローバル化の中での日本の行方

世界を魅了する日本の家庭料理

栗原はるみ著「Everyday Harumi」(2009)表紙。前著「Harumi's Japanese Cooking」(2004)により、第10回グルマン世界料理本賞を日本人で初めて受賞

 日本は、自国の伝統的料理に加え、世界各地の料理を貪欲に吸収、改変してきた世界有数の食文化大国です。日本の家庭料理も日々進化しており、その多彩なレシピはここ欧州でも人気です。2009年、栗原はるみさんの料理本「Everyday Harumi」が英国で出版され、世界的ベストセラーになりました。海外の日本食レストランの急増だけでなく、日本の家庭料理やB級グルメまでが知られるようになったことで、世界の消費者の日本食への関心は高まっています。

 世界の人々が作る「和風ポテトサラダ」や「煮豚」には、日本製マヨネーズ、醤油やみりんが必要です。日本食のレシピは日本製の多彩な調味料や香辛料、日本酒の需要にまで及びます。日本食を身近な食材で料理できることに道を拓いた一冊の料理本が、世界で需要が見込まれる日本食関連商材のグローバル化に貢献しているのです。

無形文化遺産となった和食×カツオ節の欧州進出

 2016年、世界の食の評価で有名なSAVEURが、東京を「世界一の食の都市」に選びました。東京はミシュランの星を獲得したレストランが226あり、パリの94を大幅に上回っています。しかしそのレストランが皆和食かといえば、その大半はヨーロピアンで、うち50はフランス料理店です。ひとつの都市で、ミシュランの星を持つフランス料理店が50を数える都市は他にありません。

 2013年12月、ユネスコ無形文化遺産に「和食(Washoku)」が登録されました。ユネスコ登録を経済的好機と捉える向きもありますが、無形文化遺産とは喪失の危機にある文化なので、逆に「和食」の絶滅を印象づけてしまうのが心配です。和食を保護し、後世に伝承していくだけなら、伝統の本来の意味である創造は停滞するかもしれません。

「UMAMI、UMIを渡る」と題された枕崎フランス鰹節のHP

 和食の真髄ともいえる出汁(dashi)への理解も進んでいますが、これまでEU圏にはカツオ節の輸入には厳しい制限がありました。日本産のカツオ節は、いぶす過程でごく微量の焦げが付着することから、発がん性物質に対するEUの厳しい基準をクリアするのが難しかったのです。これまで欧州ではベトナム産や韓国産のカツオ節が流通していましたが、肝心の日本産のカツオ節は入手困難でした。

 2017年2月、日本の水産庁がEUにカツオ節を輸出する際に必要な認定書を静岡県の水産加工会社に交付したことが報道されました。さらにフランスのブルターニュで、鹿児島県の枕崎水産加工業協同組合とかつおぶし関連会社9社が出資して設立した「枕崎フランス鰹節」の生産工場が始動しました。農林水産省によると、欧州では2013年に5500店だった日本食レストランが、2015年には1万550店に急増しており、出汁に欠かせないカツオ節の需要も高まっていることを受け、新たな伝統を創造する「和食」が、ここ欧州から生まれるかもしれません。



武邑光裕(たけむら・みつひろ)[クオン株式会社 取締役 兼 ベルリン支局長]

メディア美学者。武邑塾主幹。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学情報デザイン科、同大メディア美学研究センター所長、東京大学大学院新領域創成科学研究科、札幌市立大学デザイン学部(メディアデザイン)で教授職を歴任。2015年より現職。専門はメディア美学、デジタル・アーカイヴ情報学、創造産業論、ソーシャルメディアデザイン。著書『記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。2015年よりクオン株式会社ベルリン支局長。2016年、取締役就任。


ソーシャル グローバルトレンド

ヨーロッパ各国から様々なクリエイターやテクノロジストが集まる街、ドイツ・ベルリン。この街を訪れると、自ずとソーシャルビジネスのグローバルトレンドを垣間見ることができます。本連載では、ベルリンに在住する著者が現地で見た、ソーシャルビジネスの最前線を紹介します。

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