経営×ソーシャル
ソーシャル グローバルトレンド
2017年3月21日
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武邑光裕 [クオン株式会社 取締役 兼 ベルリン支局長]

Nikkei(日系)料理の躍進と消え行く和食、グローバル化の中での日本の行方

Ishinの松寿司(21ユーロ)。変化し続けるNikkei寿司ではなく、「江戸前」寿司を基本としている ©Ishin

 邦人在留数が3500人しかいないベルリンでも、Nikkeiレストランは増え続けています。和食に軸足をおいた高級店の他、不思議な寿司ロールが並ぶ回転寿司やタイやベトナム料理との混淆による飛躍した寿司が目立ちます。急速に変化をとげる寿司に違和感を覚える日本人がいる中で、世界の人々は変容する寿司にも愛着を感じています。

 その中で、「一心(Ishin)」という寿司店がベルリナーに人気です。1996年の創業以来、ベルリンのビジネス地区に現在6店舗(うち2店はうどんと伝統日本料理)を構えています。メキシコや地中海のクロマグロがベルリンで調達され、オーナーが日本人ということもあり、日本の寿司の原型を留めない寿司ではなく、古き江戸前の基本に軸足を置く姿勢がドイツ人に評価されているようです。

 Ishinには昔の寿司の素朴さがあり、それは今の日本の高級寿司とベルリンとの間にある「時差」を、丁寧に埋めていく作業のように感じます。日本企業の海外進出も、自社製品へのナルシズムを排し、文化の時差や融合という観点で世界の市場との接続を考える必要があります。

日本企業の海外進出×コミュニティファースト

 日本では少子高齢化による労働生産力の低下、国内人口減少と市場縮小という宿命が待ち受けており、国内製造業の海外市場進出は待ったなしの状況です。しかし今、海外進出企業の約4割が撤退を余儀なくされています。要は海外市場で確実に支持される日本製品の潜在的可能性が多々ある中で、日本で売れている商品が、海外でも売れるとは限らないということです。グローバル化による文化の「同時性」を一旦精査し、文化の翻訳や文化の「時差」を、海外の消費者コミュニティの内側から確認するマーケティングが必要だと実感します。

 同時に、国内市場の成功体験に依存するのではなく、海外市場への参入について、より積極的に対処する必要があります。それは、海外の日本食がNikkei一色に染まる前に、日本企業が自ら世界を舞台に「和食」の可能性を開拓する姿勢とも重なります。

 日本の高品質な製品への過信は、世界市場の開拓にとって第一の壁ともなります。世界に文化の同時性を求めるだけでなく、多文化による編集は日本の商材に「改善」を促します。企業の商材価値を決めるのは、日々変化する世界の消費者です。その意味からも、これからの日本企業の海外進出において肝心なのは、世界の消費市場を知るためのコミュニティファーストへの取り組みなのだと思います。

(クオン株式会社 取締役 兼 ベルリン支局長 武邑光裕)



武邑光裕(たけむら・みつひろ)[クオン株式会社 取締役 兼 ベルリン支局長]

メディア美学者。武邑塾主幹。日本大学芸術学部、京都造形芸術大学情報デザイン科、同大メディア美学研究センター所長、東京大学大学院新領域創成科学研究科、札幌市立大学デザイン学部(メディアデザイン)で教授職を歴任。2015年より現職。専門はメディア美学、デジタル・アーカイヴ情報学、創造産業論、ソーシャルメディアデザイン。著書『記憶のゆくたて デジタル・アーカイヴの文化経済』(東京大学出版会)で第19回電気通信普及財団テレコム社会科学賞を受賞。2015年よりクオン株式会社ベルリン支局長。2016年、取締役就任。


ソーシャル グローバルトレンド

ヨーロッパ各国から様々なクリエイターやテクノロジストが集まる街、ドイツ・ベルリン。この街を訪れると、自ずとソーシャルビジネスのグローバルトレンドを垣間見ることができます。本連載では、ベルリンに在住する著者が現地で見た、ソーシャルビジネスの最前線を紹介します。

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