「課長はとにかく仕事ができる人で、下に限らず上からも恐れられていました。ただ恐がっているというよりは、『あの課長に叱られるってことは自分ができてないってことだからがんばろう』みたいな感じで、課長は周囲にいい意味で緊張感を持たせるような存在でした」

 Cさんは課長に畏れと憧れを持って接していた。厳しくされることはあってもそれも自分の糧になるはずと信じ、乗り切ってきた。そんなCさんを、課長もそれなりに評価してくれているようであった。

 入社3年目の夏、Cさんは課長の出張に同行することになった。Cさんにとっては初の海外出張、客との商談をまとめるため、課長の指示のもと資料作成等の事前準備に励んだ。

「出張は3日間で、最終日にお客さんから商談OKの返事をもらうことができました。課長も相当うれしかったらしく、お客さんらとディナーをともにしたあと、ホテルのバーに帰って2人で祝杯をあげました」

 海外出張を成功のうちに終えることができ、Cさんのテンションも上がっていた。その案件を一緒にやりおおせた課長が非常に魅力的にも思えていた。ここでCさんは初めて、課長に対して部下としてではなく、男としての一面を見せる。このあと課長の部屋に行きたいと願い出たのだった。

「課長は『いいよ』という感じで、サラッと承諾しました。そこで初めて関係を持ち、社内不倫がスタートしました。僕の方は『あの課長と……』という恋愛感情に近い興奮がありましたが、課長はその件に関してどう考えているかイマイチつかめない様子で、わりとドライな印象でした」

 週に1度の逢瀬が3ヵ月ほど続いたある日、Cさんは突然、人事部長に呼び出された。

「人事部長から『君のところの課長と君が社内不倫しているという噂があるが、本当か?』と尋ねられました。冷や水を浴びせられたような思いでしたが、なるべく平静を装って『ただの噂だと思います』と返事しました。人事部長は全てを見通したような表情で重く頷き、『もし社内不倫をしている事実があるなら会社としても何かしらの対処をせざるを得ない。くれぐれも肝に銘じておくように』と忠告されました。それで僕は、『人事部長は真相を知っているけど事が表面化する前に解決させておこうとしているのだな』とわかりました」