Cさんが人事部からデスクに戻ろうとしたとき、廊下で課長とすれ違った。課長は周りに人がいないことを確認した。それからこんな会話をしたという。

「聞いた?」
「あ、はい…」
「そう。じゃあ、ああいうのはこれっきりね」

「それ以降、課長とは不倫のことについて一言も話したことはありません。向こうの『その話はするな!』というオーラがものすごく……。僕はまだ関係を続けたく思いましたが、向こうは家族もいますし、ここは潮時として引き下がらなくちゃいけないともわかっていました」

 その後、Cさんは同僚などから課長との社内不倫について「あれ本当なの?」と聞かれることがあった。その折を利用してCさんは逆に質問をし、舞台裏についての情報を集めていった。なぜ社内不倫がバレたのか? 普通人事にバレたら異動の措置が取られるのがCさんの会社の通例であるのに、厳重注意で済んだのはなぜか?

「逢瀬には会社から離れた駅のホテルを利用していたのですが、たまたま社員の誰かがホテルに向かう僕たちを目撃したようなのです。それでそれが噂になり……というところですね。ただの注意で済まされたのは、どうやら課長の人事への根回しがあったみたいです。普段の勤務態度や仕事の成績から課長は社内的に信頼が厚かったので、噂を耳にしてすぐ、まだ何も知らない人事に駆け込んで、『これまで社内不倫をしていたが今後は二度としないので』と許しを請うたらしいです。人事は役員まで巻き込んだ大騒動になったらしいですが、課長の態度が好感され結局お咎めなしとなりました。社内風紀を自ら正そうとする姿勢がよかったみたいです」

 課長が日ごろ培った信頼があってこそなせるわざだったのかもしれない。それ以降、課長は何事もなかったかのように振る舞った。一方、Cさんは社内不倫を快く思わなかった同僚や女性社員から冷遇されるようになり、課長から回される仕事もなんとなくパッとしないものとなった。社内で座りが悪くなったと感じたCさんは、次の異動のタイミングで異動願いを出し、営業部とは遠い畑に移っていった。