従業員の仕事が遅い背後には、本人の能力以外にも、環境や体制など多くの要因がありうる。上司は「急き立てる」よりも、相応のマネジメントと配慮が必要だ。


 いま、あらゆる職場で仕事のペースが速まっていることは間違いない。誰もが以前より多くのことを、より短い時間で済ますよう期待されている。

 では、あなたのチームに「カメ」がいたら、どうすればよいだろうか。仕事の完遂までにそれほど時間がかかる原因を、どのように診断すべきだろうか。そして、ペースを上げることの重要性をその人に理解させ、その実現をサポートするにはどうしたらよいだろうか。

専門家の意見

 作業が遅い従業員は、チームの生産性を低下させるだけでなく、メンバーの士気をくじくことにもなりうる。こう述べるのは、『マッキンゼー流 最高の社風のつくり方』の共著者であり、ベガファクター共同創業者のリンジー・マクレガーだ。「誰もが業務達成へのプレッシャーにさらされている時、チームの足を引っ張る物事は、何であれやる気を大いに削ぐものです」

 しかし、スピードアップを脅迫的に強いるのは逆効果に終わるだけ、と指摘するのは、時間管理の指導・訓練を提供するリアルライフEの創業者であるエリザベス・グレース・サンダーズだ。「マネジャーは、従業員の改善プロセスにおけるパートナーとなるべきです」。そして、仕事の迅速化は当人の成功を最大化することである、と理解させるのがよい。つまり、仕事の成果だけでなくキャリアの前進にもつながることを示すのだ。

 ●職務が滞る原因を見つける

 従業員の作業がマネジャーの期待よりも遅い理由は、さまざまだろう。だが、マネジャー自身が問題の根本を察している場合でも、相手にただ理由を尋ねるのがベストの方法だ。

 先入観をもって会話を始めてはならない。部下は新しい任務に手間取っているのか。相当な完璧主義者ゆえに、特定のプロジェクトに時間をかけすぎているのか。他のチームメンバーの遅れを待つことで、しわ寄せを被っているのか。期待に応えていないことを、そもそも認識していないのか――。

「当人には前向きな意図がある、という前提で話を始めてください。この人はいい仕事をしたいのであり、方法さえわかっていれば実際にいい仕事をするはず、と考えるのです」(マクレガー)。好奇心を持って会話にのぞめば、実行可能で効果的な解決策のアイデアが出やすくなる。

 ●明確で具体的な目標を設定する

 仕事が遅い従業員は、遅いことを認識すらしていない可能性もある。その一因は、何を求められているかを理解していないからだ。

「新たな役割を担った人にとって、学ぶのが最も難しいことの1つは、“よい”の基準を知ることです。マネジャー側は、その基準を示すのにかなりの努力をする必要があります」(マクレガー)。財務報告書の遅れについて部下に長々と説教するのではなく、ともに腰を落ち着けて、成果物の具体的なスケジュールを作成しよう。どの仕事で時間を重視してほしいかを説明し、所要時間も示すとよい。

 完璧主義の従業員も、期日を明確にされることで助かるだろう。「完璧主義の人は、完璧な出来が重要な部分とそうでない部分を区別することに、本当に苦労しているのです」(サンダーズ)。つまり、どの目標を強調するかはマネジャーの重要な役割なのだ。慣れないうちは、そうすることが過剰管理のように思えるかもしれないが。

 ●障害を取り除く

 従業員の仕事の流れには、マネジャーが気づいていない障害があるかもしれない。たとえば、ある従業員の席に始終大勢の人が立ち寄って、支援や助言を乞うているような場合、時間通りの業務完遂は不可能かもしれない。あるいは、仕事をうまく遂行するのに必要なソフトウェアや機器が揃っていないことも考えられる。

「システムが時代遅れだったり、従業員が単に手元のツールの使い方を知らず、トレーニングが必要だったりする場合もあります」(サンダーズ)。デジタルのツールを使えばもっと速くできる仕事を、手作業でやっているかもしれない。オフィスの反対側に設置されたプリンターまで、いつも印刷物を取りに行く必要があるのかもしれない。

 マネジャーは、部下の作業プロセスについて詳しく質問し、迅速化に役立つ解決策を一緒に探そう。障害をつきとめたら、解決方法についてアイデアを出し合い、その実行をサポートする意図をはっきり示すとよい。

 ●データを武器として利用しない

 マネジャーの手元には、誰の仕事ぶりが同僚と比べてどれほど遅いのかを示す、数多のデータが揃っているかもしれない。だが、このような情報は諸刃の剣だとマクレガーは言う。正しく使えば、部下が仕事のやり方を時とともに改善していけるよう後押しができる。たとえば、顧客の成果にもっと注目させるために使うなどだ。

「ですが、データによって部下に恥をかかせたり、あからさまなご褒美として利用したりすると、彼らは目標を名目上で達成しようと近道をして、中身が伴わないでしょう」。部下への対立的なスタンスを避けたいならば、結果を出させるための武器としてデータを利用するのも避けるべきだ。

 ●大きな仕事を小さく分ける

 プロジェクトを小さな成果物に細分化し、すべてが円滑に進んでいるかどうかを事前に定めた期日に状況確認する。この方法は、物事を先延ばしにする癖のある人にとりわけ有効だとサンダーズは言う。「仕事を細かい要素に分けることで、なかなか着手できず苦しんでいる人により切迫感を感じさせ、もっとタイムリーに遂行させることができます」。研究からは、小さな成功を積み上げることで生まれる進捗感も、意欲の持続に寄与することがわかっている。

 ●楽しさを感じさせる仕事を見つける

 マネジャーは、部下がどの仕事を楽しんでいるかを見出す時間を取るとよい。すると往々にして、彼らが最も得意とする仕事は何かを把握できる。楽しめる仕事をもっと割り当てれば、従業員の仕事ぶりも自然に向上するはずだ。

「人は燃え尽きてくると、必ずペースが落ちるものです。物事に飽きたり、やっていることを楽しんでいなかったりするとそうなります」(サンダーズ)。部下にとって楽しめる作業は何かを知っておき、それを臨機応変に与えれば、もっと仕事が速くなり生産性も上がる可能性は十分にある。

 ●フィードバックを忘れない

 仕事が遅い部下について、問題の根源を正しく理解し、賢明な迅速化へと導くことができたとしよう。しかし、マネジャーとしての最も重要な仕事は、その後のフォローアップとフィードバックの提供である。部下が向上したら、その旨を必ず当人に頻繁に伝えるようマクレガーは勧める。「そしてその向上を、個人としての成長、そして仕事で前進し成長する能力に結びつけて言及するのも、忘れないように」

 サンダーズの提案も同様だ。行動に改善が見られた従業員やそのチームに対し、称賛によって報いる何らかの方法を思いついたら、ぜひ実行するとよい。「従業員の意欲が最も高まる要因の1つは、同僚への責任が果たされることなのです。仕事を時間通りに、または期待通りの速さで遂行しているチームに対して何らかの見返りがあるなら、それはとても意欲を高めると思われます」

 覚えておくべき原則

【やるべきこと】

・仕事のペースが他の人よりも遅い理由について、好奇心を持って話し合う。本当の理由に驚くことになるかもしれない。
・具体的な目標と期日を明確にして、何を期待されているかを理解させる。
・楽しさを感じられるプロジェクトや課題を与える。満足度の高い従業員は仕事も速いのが普通だ。

【やってはいけないこと】

・他者よりも仕事が遅いことを、データで突きつけてはならない。このやり方は相手の意欲と士気の喪失、または近道による不測の事態を招きやすい。
・仕事の環境や流れを変えるのを、当人にすべて任せてはならない。解決策のアイデア出しに協力し、必要に応じて新しい手段を与えよう。
・フォローアップを忘れてはならない。仕事ぶりの向上を称賛し、他に何か支援が必要かを尋ねる。