橘玲の日々刻々 2017年3月21日

森友学園問題で見えてきた
「自分の妻も管理できない人物が国家を管理できるのか」問題
[橘玲の日々刻々]

 大阪府の学校法人が首相夫人を「名誉校長」に迎えて新設する小学校の建設用地として、国有地を格安で随意契約した事件が波紋を広げています。「国民の財産」が不当な安値で払い下げられるのはたしかに大問題ですが、それ以上にひとびとの興味を掻きたてたのはこの学校法人の教育方針で、幼稚園では園児に軍歌や教育勅語を唱和させ、保護者に対して「パンツが生乾きで犬臭い」とか、日本国籍を取得した韓国人の親に「韓国人と中国人は嫌いです」との手紙を送りつけるなど、常識では考えられない“奇行”の数々が暴かれました。国際社会からも「日本の首相夫妻はヘイトなのか」と疑惑の目を向けられかねず、あわてて「名誉校長」を辞任し火消しに躍起です。

 とはいえ、首相が国会で「私や妻が関係していたとなれば、首相も国会議員も辞める」と大見得を切ったのですから、政治的には単純な話です。国有地の格安売却に自らの意向が働いていたとの証拠があれば首相が退陣し、なければ一部の関係者が処分されるくらいで立ち消えになるでしょう。

 それより興味深いのは、磐石の権力基盤を築いたはずの安倍首相が、なぜこんなくだらないことで足を引っぱられる羽目になったかです。

 学校法人は「日本で初めてで唯一の神道の小学校」をうたい、首相夫人は講演で「こちらの教育方針は大変、主人も素晴らしいと思っている」と激賞しましたが、国会の答弁で首相は「何回も断っているにもかかわらず、寄付金集めに(安倍晋三記念小学校の)名前が使われたのは本当に遺憾」「(学校法人の理事長は)非常にしつこい」などと突き放しています。

 事件の全容が明らかになっていない段階ではあるものの、これは首相の答弁にリアリティがあります。日本国の首相であっても、政治家は支持者を批判できません。学校法人の理事長はその弱みにつけこんで、首相の名前を利用して行政に圧力をかけ、有利な条件を引き出そうとしたのでしょう。これは「圧力団体」とか「フィクサー」と呼ばれるひとたちの常套手段で、国有地の売却はこうしたうさんくさい話のオンパレードです。――ちなみに大手新聞社も払い下げられた国有地に立派な社屋を建てています。

 だとすれば安倍首相は、妻があやしげな「教育者」に心酔したことでいわれなき非難を浴びた“被害者”ということになります。そしてじつは、自民党だけでなく野党でもおおかたの政治家はそう考えているといいます。

 首相夫人は、東日本大震災の復興事業の目玉である防潮堤建設に反対したり、「反安倍、反原発」のミュージシャンと意気投合して沖縄を訪れるなど「家庭内野党」を名乗っていますが、「大麻合法化」を唱えるのは神社の注連縄に日本製の麻を使えるようにするためで、その言動から見えてくるのは“スピリチュアル”への過剰な傾倒です。これが「神道の小学校」に肩入れすることになった理由でしょう。

 安倍氏が二度目の首相の座を目指すと決意したとき、夫人は神田の路地裏で居酒屋を経営していました。その天衣無縫さが彼女の魅力でしょうが、しかしこれは、一歩間違えれば夫の政治生命を奪いかねません。しかし首相の有能な側近たちも、夫婦の関係にはいっさい口出しできないようです。

 この特異な事件は、「自分の妻も管理できない人物が国家を管理できるのか」という話なのかもしれません。

参考:石井妙子「安倍昭恵「家庭内野党」の真実」(月刊『文藝春秋』2017年3月号)

『週刊プレイボーイ』2017年3月13日発売号に掲載

 

橘 玲(たちばな あきら)

 作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ヒット。著書に『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』『橘玲の中国私論』(ダイヤモンド社)『「言ってはいけない 残酷すぎる真実』(新潮新書)など。最新刊は、小説『ダブルマリッジ』(文藝春秋刊)。

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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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