日本マクドナルドが実践してきた「広めていただく」マーケティングを紹介してきた本連載。最終回は、その本質が、思考プロセスを逆転させた「消費者主導」のマーケティングであることを解説する。
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新たなマーケティングプロセスの提唱

 これまで、PRとソーシャルという2つの観点から、メディアや消費者に「広めていただく」にはどうしたらいいかについて論じてきた。PRであれば、「世の中ゴト」だとメディアが捉えてくれるようなニュース性のあるマーケティング活動を展開する必要があるし、ソーシャルにおいては、「自分ゴト」と消費者が捉え、消費者が人に伝えたくなるほどに話題性や驚きがあるメッセージを発信しなければならない。

唐澤 俊輔(からさわ・しゅんすけ)
慶應義塾大学法学部卒業後、2005年に日本マクドナルド株式会社に入社。史上最年少(28歳)で部長に抜擢され、2015年には社長室長として全社の変革に貢献。2016年1月より、ナショナルマーケティング部長として、新商品のプロモーション活動や、メディア・アライアンスの企画・実行に責任を持つ。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)修了。グロービスマネジメントスクール講師。共著に『これからのマネジャーの教科書』(東洋経済新報社)。

 これらから言えることは、「何を売るか」にも増して、「何を伝えるか」ということの方が重要になってきているということだ。もちろん、商品自体に圧倒的な独自性があったり、消費者が抱える問題を解決する画期的な商品だったりする場合は、それ自体にPRバリュー・SNSバリューが高いので、何を伝えるかを考えることはさほど重要ではない。しかし、モノにあふれ、十分に便利になった現代において、そうした商品がどれほど存在するだろうか。仮に製品で大きな差別化ができなくとも、消費者にとってソーシャルで拡散したくなるメッセージを発信することで、消費者の興味を喚起することが、マーケティングとして実現できるのである。

 現に、「マックの裏メニュー」は商品としてはあくまでトッピングであり、商品そのものがイノベーティブなわけではない。しかし、「裏メニュー」と名づけ、「お客様のお好きなようにカスタマイズします」というメッセージを発信することで、消費者の興味を喚起することができた。

 マーケティングの巨匠フィリップ・コトラーは、「いいものを作れば売れる」という製品中心のマーケティング1.0から、「消費者を理解し他と差別化を図る」という消費者志向のマーケティング2.0へと移行してきたという。そしてこれからは価値主導のマーケティング3.0、そして社会的意義主導のマーケティング4.0に移るだろうと論じられている。しかし、現実には、多くの企業はいまだマーケティング2.0への移行や実践に留まっているように見受けられる。

 マーケティング2.0においては製品の差別化が重視され、「差別化されたその製品を、どう消費者に伝えるか?」という観点で、クリエイティブ開発やメディアプランニングが行われている。つまり、「製品を作ってから、それをどう伝えるかを考える」という思考プロセスを経ている点においては、マーケティング1.0と実はあまり変わっていない。