●社長の笑顔
 私は、「笑顔ほど、人の心を開かせるものはない」と思っていて、40年以上前から心に決めていることがあります。

「よい報告は笑顔で聞く。トラブルなどの悪い報告は、もっと笑顔で聞く」

 私がこう思うようになったのは、日本電子時代の、ある出来事がきっかけです。

 私が現場の問題を社長に進言したところ、露骨に「嫌な顔」をされたことがありました。

 アメリカから戻った私が社長に、「こういう問題がある」と言ったところ、社長は、「わかった。もういい」というひと言だけ。

 私がもう一度社長室に出向いて同じ報告をすると、

「近藤くん、キミもしつこいね。わが社は技術がすぐれた会社なのだから、営業は、技術がつくったものだけを海外に売ればいいんだ。もうくるな!」

 と一蹴されてしまったのです。

 私は「会社の危機だ」と痛感しました。
 社長自身が、会社が変わる(よくなる)機会をみすみす逃していたからです。

 トップがこんな顔をするようでは、社員は報告をやめ、問題を隠そうとする。
 社長が社員からの提案を拒む限り、会社は改善されません。

 このとき私は、「自分が社長になったら、いい話だけでなく、悪い話でも笑顔で聞こう」と決めました。

 私は「笑顔は、社長の仕事」であり、「笑顔は、社長の能力」だととらえています。

 社長がしかめっ面をしていたら、それを見た社員は、「話しかけてくるな」「近寄るな」という情報として受け取ります。
 社員は萎縮し、茶坊主となって、「社長にとって都合のいいこと」しか報告しないでしょう。

 反対に、社長の笑顔は、「いつでも話しかけていいよ」「怖くないよ」という情報と同じで、社内の空気を明るくします。

 社員に笑顔を見せて、会社の空気を明るく、楽しく、やさしくするのも、社長の大切な仕事なのです。

 日本レーザーでは、半期ごとに社員面接を行っていますが、社長にとって「カチン」とくる批判を社員から浴びせられることもある。
 そんなときこそ私は、「よく言ってくれたね、ありがとう」と笑顔で接しています。

 管理部・総務課長の野中美由紀は、私に対してこんな印象を持っているそうです。

「何があっても、いつも笑顔で、絶対に声を荒げない人」

 笑顔こそ、社長の武器なのです。