感情が入ってきた岩本の話を黙って聞いていた隆嗣が、幸一を指差して質問した。

「彼らは、来月からロシアの関税が上がるので値上げをしてくれと言っているんだ。今、工場内に原材料はゼロなのかい?」

 隆嗣の指摘が意味することに気付き、はっとして幸一が中国語でまくし立てた。

「現在工場内には、まだかなりの丸太と板材の在庫があります。おそらく5000リューベー近くあると思いますが、違いますか?」

 すると、生産担当である副総経理が頷いて応じた。

「関税アップは来月の1日からです。すでに入荷している材料は関係ないはずです。その材料を使う商品まで来月から値上げというのは、おかしいと思いますが、いかがです?」

 すると、禿げ上がった総経理が頭皮に血を昇らせて大きな声で反駁する。

「先ほども董事長が説明したとおり、中国元高や増値税還付減少の負担を、ずっと我々が被ってきたんだ。それだけでも、かなりのロスがあったことを忘れないで欲しい」

「皆さんが懸命に協力してくれたことは、一緒に仕事をしてきた私が一番理解しているつもりです。しかし、今回のことで三栄木材は大変な苦境に立たされることになるのです。日本では、お客様の信用を一度失うと、その百倍の努力をしなければ相手にされません。現有在庫で出来る商品までは、なんとか従来価格で続けてもらえませんか」

 懇願する幸一に向かって身を乗り出し、更に反撃を加えようとする総経理を手で制した清義が、腕組みをして考え込んだ。

「どうしたんだ?」

 岩本は、いきなり中国語で論戦を始めた幸一に驚いて問い掛けた。在庫してある材料で生産する商品は値上げ対象外とするよう要望していることを幸一が説明する。

「そうか、なんとか半年間現状維持で繋いでくれるよう説得してくれないか。仕様変更の場合は、東洋ハウスへ半年前には通達する義務があるんだ。半年の時間が稼げれば、次の手を打つことも出来ると思う」

 岩本が幸一の肩を叩いて叱咤した。