がんやリウマチなど、これまで治療することが難しいとされてきた病気に対し、「抗体医薬」という新しい薬を使った治療法が広がりつつある。抗体医薬とはどういう薬なのか、これまでの薬と何が違うのか。そして、抗体医薬の薬効を高め、治せる病気が増えると期待が集まる新技術の存在。難病治療に挑む新世代抗体医薬の最先端を紹介する。

「がん細胞を狙い撃ち」「悪玉細胞を標的にした抗体医薬」−−。こんな見出しの記事を見かけたことが、おありだろう。

 今、がんや関節リウマチなど、これまで治療が難しく、場合によっては命を奪われる病気の治療が、「抗体医薬」という新しい薬によって少しずつ進歩し、治るケースも増えている。

 例えば、現在、がんの治療に使われている抗体医薬には、血液がんの一つである悪性リンパ腫の治療に使われるリツキシマブ、乳がんの治療に使われるトラスツズマブ、大腸がんの治療に使われるセツキシマブなどがある。このほか、関節リウマチ、気管支喘息、加齢黄斑変性など難治とされる病気の治療にも使われており、現在、日本では15種類以上の抗体医薬が医療現場で使われている。

がん細胞の中の分子を狙い撃ち

 がんの治療で主に使われているのは「抗がん剤」という薬。これらの多くは、がん細胞に直接作用して、がん細胞が増えたり転移したりすることを止めることで、がんを抑えようという薬だ。しかし、抗がん剤は正常の細胞にも同じように作用してしまうため、吐き気や嘔吐、口内炎、全身の倦怠感や筋肉痛、手のしびれ、脱毛など、さまざまな副作用があり、病気とは別の苦痛を患者に与えることもあった。

 これに対して、がんの抗体医薬は、がん細胞にのみに存在するマーカーや、がん細胞を増やしたりがん細胞に栄養を送る血管を作ったりする上で重要な役割を担っている物質(分子)を研究によって見つけ出し、それを狙い撃ちするために作られた薬である。つまり、最初から「こうすれば、がん細胞のみを攻撃することが可能なはずだ」と設計して開発した薬剤なのである。そのため、正常な細胞に与える副作用が小さくて済むと考えられる。

 がんのほか、リウマチ、喘息などの病気で、その病気に関わる分子を標的にした薬を「分子標的薬」と呼んでいる。分子標的薬の中でも、抗体と呼ばれるたんぱく質を用いて病気にかかわる分子のみを認識するのが「抗体医薬」である。抗体は、人間の体が元々持っている、異物を排除する「免疫」の仕組みの一つであり、自分自身の病気を治癒する力を利用した薬だといえるだろう。