3人いれば、世の中を変えられる
本の仕事に垣間見た醍醐味

 本の仕事は、広告や雑誌の仕事と一番違って、「一人でできる仕事」なんです。しかも、そのことが自分に合っていました。

 たとえば広告だと、デザイナーだけでも数人のチームを組んでひとつの仕事に取り組む。それはそれで素晴らしいことなんですけど、僕にとってはあんまりモチベーションが高まらなかった。

 でも、書籍って最少人数で作っている、すごく絞っていけば著者がいて、編集者がいて、装丁家がいる、この3人がいれば完成するんです。しかも、売れたりすると、ちょっと世の中を変えられるというか。それも大きな魅力でした。

きっかけとなった『新宿鮫 無間人形』
デザインを担当した作品が直木賞に

 その影響力の大きさと面白さを実感したのが、大沢在昌さんの『新宿鮫 無間人形』。人気シリーズの4作目でした。これをやらせてもらったことは、僕の大きな転機になりました。

装丁家の醍醐味は、<br />世の中に影響を与えられること<br />装丁家・重原隆氏(前編)重原さんのにとって転機となった作品、『新宿鮫 無間人形』。

 大沢さんはこの作品で直木賞を獲得されました。そしたらテレビドラマにはなるわ映画にもなるわで、もうすごいブームを生んでいったんですね。このムーブメントはとても面白いと感じました。

 こういう大きなタイトルは、普通もっと著名なデザイナーに依頼されるんですけど、読売の方は若い僕に任せてくれたんです。すごくラッキーでしたね。

 読売新聞の方には、その後もかなりお世話になりました。僕の仕事をみて「もったいない」と言って、10社くらいの出版社に僕を紹介してくれたんです。その中にダイヤモンド社さんもあって、今のような濃いお付き合いに繋がっています。