古から今も変わらず慣習、習慣を受け継ぎながら、流々とした時を刻む町京都祇園。時代を超えて私たち日本人の心を惹きつける「粋の文化」を祇園に入り浸る著者が「かっこいいおとな」になるために紡ぐエッセイ。第4回は春の花街の恒例行事、「都をどり」についてお届けいたします。(作家/徳力龍之介)

春の花街の「粋なコース」とは?

京都・花街の春は桜と「都をどり」撮影/福森クニヒロ

 京都の春は花見のお客さんで街は賑わうのですが、花街の春は桜だけではありません

 五花街といわれる各花街では舞の会が催され、各所で芸舞妓さんを愛でるというのが花街での恒例の行事になっています。

 地元の人だけではなく、全国各地から毎年訪れるという方も多く、普段は御座敷でしか観られない芸舞妓衆の華麗な舞が、劇場形式で気軽に観ることができます。祇園町甲部では舞の流派は井上流と決まっており、井上流の舞を観られる「都をどり」は特に人気があり、観覧券もなかなか取れないようです。

 普段からの厳しいお稽古の成果を、余すところなく観られる会でもあります。花街に通うご贔屓連中は、年が明けるぐらいからこの「都をどり」の予定を早々と組み入れます。自分が贔屓にする芸舞妓や自方衆の出番を確認し観覧日を決め、そのための手配に走るのでした。

 贔屓になると、早々に番組といわれる出番表の付いたプログラムが送られてきます。番組表に熨斗のように紙を巻き、「御旦那様」と書かれたものがお茶屋さんから届きます。芸舞妓衆から人気のご贔屓さんには大勢から届くので、その番組が束になることもしばしば。お客としての普段の行いがこれに反映されているようです。いいお客にはたくさん届く、というわかりやすいものなのです。

 番組が届くころになると、贔屓筋も忙しくなります。自分の贔屓の芸舞妓衆が出演する日に合わせて、お部屋見舞いを送る準備をします。これは、ご祝儀という形でお金を包むこともあれば、楽屋に付け届けでお弁当やお菓子類の食べ物などを届けたりもします。演劇の世界と同じで、ファンから届く贈り物という具合です。