自動車は、機能面のデジタル化が進む反面、メーカーのビジネスモデルはいまだに「ハードを売って儲ける」発想が主流だ。INSEAD教授が、モノとデジタルの融合から、その先に進むためのアイデアを示す。


 BMWは世界最高峰の自動車メーカーの一つである。そしてこの会社は、自動車業界におけるデジタル変革の意味についても真剣に考えている。

 同社の車には現在、BMWコネクテッド・ドライブというプラットフォームがオプションで提供されている。ここでアプリを購入すれば、交通情報の表示やメッセージの送受信、車両の遠隔操作などができる。また、新型のBMW車が搭載するエレクトロニクスによって、ユーザーは1台で異なる走行モードを体感できる。スポーティーなモードと省燃費モードでは、走行感が大幅に変わる。

 しかしながら、BMWはデジタルのビジネス戦略をまだ十分に活用していない。それは、他の自動車メーカーも同様だ。

 考えてもみてほしい。BMWコネクテッド・ドライブ用のアプリを実際に入手するには、(初回のシステム利用料として)360ユーロが必要だ。アプリは、80ユーロで購入するもの(リモート・サービスなど)もあれば、6ヵ月間45ユーロでレンタルできるもの(リアルタイム交通情報など)もある。新車に大金を払う人にとって、80ユーロや45ユーロという料金はそれほど高いようには思われない。だが、アプリをダウンロード可能にするためだけに360ユーロを払う必要があるのは、完全に間違っているように思える。

 アップルのやり方と比べてみよう。アップルのビジネスモデルの特徴の一つは、補完製品で儲けることだ。つまり、まずハードウェアを販売したうえで、ハードの価値を高めるアプリを低価格(または無料)で提供する。これらのアプリは、車でいえばオプションに相当し、コネクテッド・ドライブはオプションを売るストアといえる。それならばなぜ、ユーザーはこのストアに入るためだけに料金を支払う必要があるのだろうか。

 想像してみよう。iPad(特に発売初期の頃)を購入してから、App Storeへのアクセス料として100ユーロ(あるいは50ユーロ)を払わなければならないとしたら、どうだろうか。深刻な障壁になっていただろう。アップルのロジックに従えば、コネクテッド・ドライブの無料化こそ望ましい流れではないか。そうすることの限界コストがいかに低いかを考えれば、これは理に適っているはずだ。

 より広範に言えば、顧客には常にデジタルストアに無料でアクセスしてもらい、そこで売る製品の料金は低くするべき、ということになる。