イノベーションを生み出す
公共サービス投資

 では、事業失敗のリスクを負う投資家はその代わりにどのようなリターンを得るのか。

 生活保護家庭の若者の就労支援などの公共サービスにおいては受益者となる人々から利用料を徴収することはできないが、SIBの仕組みでは成果を出した後に行政から報酬が支払われることになるため、民間事業者はそれまでの運営資金が別途必要となる。その運転資金を投資家の資金によって賄う。事業が成功したら、投資家には行政から、投資した資金に利子を上乗せした額が支払われるのだ。 

 日本初のSIB本格導入となる見込みの事業の中の一つに、糖尿病患者の重症化予防事業がある。

 よく知られている通り、糖尿病は重症化すると人工透析を余儀なくされる。このステージまで進行すると患者本人の生活の質が大きく低下するばかりでなく、行政や保険組合が負担する医療費が1人当たり年間500万円にも上る。

 重症化予防には本人の生活改善が必須で、公共サービスを行う側としてはそのための保健指導を効果的に行えるかどうかが鍵となる。

 この重症化予防に実績を持つ広島大学発のベンチャー企業「DPPヘルスパートナーズ」が今年、日本初のSIB事業として事業を行おうとしている。中間支援組織としてこの枠組みを調整しているのは日本財団で、すでにある自治体で予算が承認されている。こうしたヘルスケア領域におけるSIB事業に関してはみずほ銀行や三井住友銀行が資金提供を検討中だ。

 行政にとっては重症化予防が政策目標であり、それを実現してくれる民間事業者に事業を任せたい。仮に成果があまり出なかった場合でも、行政の支払いは少なく抑えられる。また、成果が出た場合には、その事業者に任せなかったら将来、行政が負担することになったであろうコストの削減も期待できる。

 民間事業者はこれまでのようにお金の使い方を細かく縛られることなく、成果獲得のための自由な試行錯誤を許される。また、事業に必要な資金は投資家が支援してくれる。

 投資家は民間事業者が成果を出せなかった場合のリスクは負うものの、全額が必ずなくなる寄付とは異なり、事業者が成果を出した場合にはリターンを得られるというメリットを持つ。

 行政と民間事業者と投資家は、手にしたいリターンとそれを得るために支払えるコストが異なる。それぞれにメリットが出るように資金の流れがデザインされているのがSIBという新たな枠組みだ。SIBも、ソーシャル領域での資金調達の世界における一つのイノベーションだといえるだろう。

 このように、イノベーションを生み出す土壌づくりが大きく注目されているソーシャル領域では、SIBに限らずさまざまな試みが行われている。

 イノベーションマネジメントの分野で欠かせないキーワードとして、試行錯誤や失敗の許容と並んでよく挙げられるのが「異分野融合」だ。第2回は、イノベーションを生み出すためのマルチセクター推進の試みをソーシャル領域に探る。

 

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日本財団 ソーシャルイノベーション本部 社会的投資推進室
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