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「週刊文春」編集長の仕事術
【第18回】 2017年4月3日
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新谷学

不可能を可能にするからおもしろいし、夢がある

つねに世間を賑わせている「週刊文春」。その現役編集長が初めて本を著し、話題となっている。『「週刊文春」編集長の仕事術』(新谷学/ダイヤモンド社)だ。本連載では、本書の読みどころをお届けする。
(編集:竹村俊介、写真:加瀬健太郎)

「おもしろがる気持ち」にブレーキをかけるな

 「Number」時代、自分が手がけておもしろかった企画のひとつに「ホームラン主義。」がある。近鉄にブライアントというすごいホームランバッターがいた。東京ドームのスピーカーに打球をぶつけるような桁外れのスラッガーだ。彼を中心に様々な強打者を並べて「ホームランこそ野球の醍醐味だ!」という大特集を会議で提案して通ったのだ。

新谷学(しんたに・まなぶ)
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

 私は当時入社3年目。普通は特集をまるまる任せてもらうことはできない。「君はデスクの下でやってくれ」と設楽編集長に言われた。しかし、若かった私は頭に来て「いや、俺の企画なんだから、俺にデスクをやらせてください!」と訴えた。今考えればよく言ったなと思うが、設楽さんはおおらかな人だった。「それもそうだな」と、入社3年目の私と2年目の後輩と新人の3人に1冊任せてくれたのだ。

 これがものすごく楽しかった。好き放題やった。表紙のカメラマンは「ストロング&インパクト」を標榜して売り出し中だった久家靖秀さんに頼んだ。のちに宇多田ヒカルの「First Love」というアルバムのジャケット写真を撮った人物だ。彼のところに行き「ブライアントの写真で表紙を作りたいんですけど、一緒にやりましょう」と頼んだ。「どういう写真がいいですかね」と相談すると、久家さんはいきなりこう言った。「やっぱりブライアントは過剰なイメージがあるから、バズーカ砲じゃねえか」と。

 確かにストロングでインパクトもあっておもしろいが、そもそもバズーカ砲ってどこにあるのか? そこで思いついたのが、「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」という日本テレビの番組だ。「早朝バズーカ」という人気コーナーがあった。芸人さんが朝寝ている横でいきなりバズーカ砲を撃つというとんでもない企画だった。

 私は、日テレに電話をかけて「早朝バズーカ担当の方をお願いします」と言った。「あのバズーカ砲はどこに行けばあるんですか?」と聞くと「いや実は趣味でバズーカ砲を作っている鉄工所が埼玉にあるんだよ」と教えてくれた。早速、その鉄工所まで行くと、本当にバズーカ砲をたくさん作っていた。「これは引き金を引くと、煙が出るんだよ」「すごいっすね」などと言いながらバズーカ砲を2丁借りてきた。怪しまれないように風呂敷に包み、バスと電車を乗り継いで編集部に戻った。

 スタジオを借り、ブライアントを呼んで来て、ユニフォームを着せ、「このバズーカ砲を撃ってくれ」と頼んだ。ブライアントもバズーカ砲を見て大喜びした。バーンと撃ったところを撮り、それはものすごくカッコいいビジュアルになった。

みうらじゅんさんとの「聖地巡礼」

 みうらじゅんさんと企画した「巡礼の旅」という企画もおもしろかった。

 「Number」のボクシング特集のときに「『あしたのジョー』巡礼の旅」を提案した。『あしたのジョー』のゆかりの地を訪ね歩き、名場面を忠実に再現するという企画だ。この企画の前にも「『巨人の星』巡礼の旅」をみうらさんとやり好評だったため、すんなり企画は採用された。さすがはみうらさん。「君の名は。」など、今の「聖地巡礼」ブームの先駆けだったのかもしれない。早速二人で『あしたのジョー』を全巻読み直して、気になるコマに付箋を貼っていった。

 まずは「矢吹丈が少年院から脱走するシーン」。矢吹丈が豚にまたがって脱走するという名場面だ。「これは再現したいよね」と二人で言っていたが、さすがに豚にまたがるのは難しい。どうしようかと思案しているところに、ちょうど編集部に「ピッグロデオ大会のお知らせ」というプレスリリースが届いた。取材の依頼である。渡りに船とばかりに「ぜひ取材させてください!」と電話をかけた。私とみうらさんは関東近県で開かれたピッグロデオ大会に出かけて行った。みうらさんに少年院の制服っぽい服を着せて、豚にまたがって走りだしたところを慌てて写真におさめ、脱走シーンを再現した。

 いちばん大変だったのが「泪橋を逆さに渡る」というシーンだ。舞台は山谷のドヤ街。ここで写真を撮ろうというのだ。「難しいけどやってみようか」ということになり、みうらさんは矢吹丈の恰好で山谷を歩いた。赤いハンチングをかぶり、ズダ袋を背中にさげて泪橋を渡る。そこをカメラマンがパシャパシャと撮っていた。ちなみに私は丹下段平役である。

 そうして撮っていると、さっきまで路上で寝ていたおじさんが、いきなり「誰だ! 山谷で写真を撮っているのは!」と怒鳴りだした。すると、倒れていた人たちが次々と起き上がって来た。「あ? 山谷で写真だと?」と口々に言う。あっという間に囲まれた。山谷には、顔を出してはいけない人がたくさんいるのだ。ワケアリの人が木賃宿に泊まりながら日雇いで稼いだり、血を売ったりしながら懸命に暮らしている。何のツテもない一見さんがそこで写真を撮ることは、とてもリスキーで失礼なことだったのだ。

 我々取材班は彼らに「お前ら、ふざけてんじゃねえよ!」とすごまれた。でも、確かに我々はふざけている。言い訳はできない。「ふざけていました。すみません!」と平謝りした。「カメラも壊せ」と言われたが「フィルム出しますから勘弁してください」と言って命からがら逃げ出してきた。私が週刊文春などで社会派の取材を経験するずっと前の話だ。恐ろしかったが、忘れられない思い出である。

 大切なのは、おもしろがる気持ちに縛りをかけないことだ。今はマニュアル主義が横行しているから難しいのかもしれない。予算などのつまらない理由で「無理だ」と言われてしまう。おもしろいことが全部スタートの段階で潰されてしまうことも多い。

 だが、そもそも「不可能」を「可能」にするからこそ、おもしろいし、夢があるのだ。そしてそれこそが私たちの仕事なのである。その気概は今でも持っている。「バブルのいい時代だったからできた」というわけではない。

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新谷学

1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。89年に文藝春秋に入社し、「Number」「マルコポーロ」編集部、「週刊文春」記者・デスク、月刊「文藝春秋」編集部、ノンフィクション局第一部長などを経て、2012年より「週刊文春」編集長。

 


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