「なんですって、華盛大学の旧友に会ったの?」

 声を上げたお春ママの顔が、目に見えてこわばっていくのが分かる。

「え、ええ」

 予想外の反応の大きさに、幸一のほうが驚いた。

 講演後、隆嗣と別れた幸一は、慶子と待ち合わせて夕食を伴にし、一緒に『クラブかおり』へと顔を出した。まだ早い時間だったので他に客はおらず、15名ほどいる小姐たちは、1階ボックスのソファでトランプに興じたり携帯電話の画面とにらめっこしたりして、客待ちの暇潰しをしている。

 カウンターに並んで腰掛けたふたりを前に、中から笑顔で世間話に応じていたお春ママだったが、今日の出来事をかいつまんで話した幸一の言葉に過剰反応した。

「それで、隆嗣は……」

「その李さんという方と、一緒にどこかへ行ってしまいました」

「そう……」

 落ち着きを失ったお春ママを心配して、慶子が声を掛けた。

「大丈夫? 顔色が悪いわよ」

 目を閉じ小さく頷くだけで、言葉は返ってこない。

「ねえ、何かあったの? 心配事があるのなら話してちょうだい、友達でしょう」

 慶子が遠慮がちに促すと、お春ママは、同じカウンター内でグラスを磨いていたボーイに西瓜や乾き物のおつまみを買ってくるよう命じて、外へと追い出した。

 3人だけとなったカウンター端の空間、動揺した身体を支えるようにカウンターに両手を乗せ、彼女は本名の江迎春に戻って話を始めた。