毎年の赤字を埋められそう?
退職金の「年金受け取り」の落とし穴

 ここまで読むと、退職金の「年金受け取り」は年間収支の赤字70万円程度をカバーできるから魅力的と感じるだろう。仮に退職金の年金(いわゆる3階部分)が150万円なら、夫婦2人分の公的年金300万円を合わせると、年450万円の収入を得ることができる。

 赤字どころか黒字になり、収支が大きく改善するように思うかもしれないが、収入が多ければ、支出も多くなる傾向にあることに注意したい。退職時に「年金生活スイッチ」を自ら押し、支出額を見直さない限り、年400万円以下の支出にはならない。年450万円の収入がある人は、年500万円以上の支出になることが多い。長年個人相談を受けてきて、そういったケースを数多く見てきている。退職金を年金受け取りして、収入が多かったとしても、結局毎年の収支は70万円前後の赤字になるのである。

 退職金の年金や企業年金は、ほとんどが「有期払い」といって、支払期間が決まっている(「終身払い」の企業はごくわずか)。支出がふくらんだまま3階部分の年金支払い期間が終了し、老後資金が大きく目減りしていると、その後の生活が不安なものとなる。70歳、75歳がその節目となる。

 退職金の「年金払い」を選択するなら、可能な限り収入の範囲内で生活し、老後資金を目減りさせないように心がけよう。これが「老後貧乏回避」のポイントとなる。

年金だけでは暮らせない!
老後資金の目安は2750万円?

 そもそも日本の年金制度は、現役時代の収入を100%保証する制度設計ではない。共働き夫婦など例外はあるが「年金だけでは暮らせない」ことを「退職金を使う前に知っておく」ことが肝心だ。

 では「老後の備え」として、いくら取っておけばいいのだろうか。年金生活が始まる65歳以降の赤字分を仮に70万円とし、毎年貯蓄を取り崩していくとすると、90歳までの25年間で必要なお金は1750万円。

 男性の多くは「90歳まで生きていないだろう」と思うかもしれないが、寿命を事前に知ることはできないので「長め」に見ておくのが肝心だ。それに女性は長生きなので、妻は長生きする可能性が高いことも忘れてはいけない。

 さらに病気への備えや家の修繕費、車の買い換え費用などの「特別支出」として1000万円を見積もると、65歳時点で2750万円の老後資金が必要と見積もることができる。一般的に言われる「老後資金は3000万円」に近い数字となる。

 定年が近づいたら、60歳以降の収入を具体的に知り、65歳時点で確保すべき老後資金を試算してみることをお勧めする。意識付けとなる「年金生活スイッチ」は60歳で自ら押すことが大事だと覚えておいてもらいたい。

(ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)