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(2007年9月、徐州)

 「……徐州市は、江蘇省の三大都市圏のひとつです。中国の歴史上、数々の重要な舞台になったことで有名でして、彭城と呼ばれていた頃には、秦を倒した項羽の都となりましたし、その項羽を倒して前漢を築いた劉邦も、徐州市管内の沛県出身です。三国志演義で、曹操や呂布、劉備が争奪戦を繰り広げた地としても、その名を知られており……」

 もう一つの歴史、中国国民党軍と日本軍が激突した昭和13年の徐州大会戦の話は、さすがに『お客様』である我々日本人に気を遣っているのか、それとも国民党というタブーを口にしたくなかったのか、説明が省かれたようだ。事前に一夜漬けの勉強をして今回の出張に臨んだ幸一は、話を聞きながらそんなことを考えていた。

 「……黄海に面した国際港である連雲港から発して中国西部を貫き、蘭州を経て果てはヨーロッパのロッテルダム港まで繋がる、新ユーラシアランドブリッジ構想の一翼を担う隴海鉄道と、北京と上海を結ぶ京滬鉄道が交差する徐州は、交通の要衝として中国でも重要な拠点都市の一つです。
  市街区人口は182万人、市政府の行政区域内人口は940万人に達し、重化学工業から軽工業の裾野産業まで幅広く発展を継続しており、その成長の可能性は更に拡大していると自負しております。電気、ガス、水利などのインフラ整備には、徐州市人民政府としても早くから注力して参りました。国内外からの投資を惹きつけ、多くの経済開発区を成功させてきたのです……」

 今回は役人相手ということで、ビジネススーツ姿で徐州空港へ降り立った隆嗣と幸一は、同じく窮屈そうにネクタイを締めた李傑と市政府役人たちに出迎えられ、そのままワゴン車に乗り込んで目的地へ向けて走り出していた。その車中で、徐州市人民政府経済貿易委員会の上級職員という人物が、いかにも役人らしい自画自賛を含んだ説明を、大きな声で講釈していた。

 幸一は話を聞き漏らすまいと真面目な顔で耳を傾けているが、一方の隆嗣は、物思いに耽っているような顔で、ぼんやりと車窓から見える唐黍畑の波を眺めていた。

 「すまないね。退屈な演説をするのも、彼らの大事な仕事なんだ」

 横に座る李傑が、小さな声で隆嗣へ詫びた。

 「……これからご案内する徐州市銅山県の工業団地も、そんな成功した経済開発区の一つでして、電子部品公司や化学薬品公司、食品公司など、様々な業種が操業しており、活発な経済活動を行っております。日本の主要都市へ定期船が出ている連雲港まで車でわずか3時間の距離でして、工場出荷から1週間以内で日本へ商品を届けることが可能です……」

 車内の演説は続き、幸一はメモまで取り始めていた。

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村上卓郎(むらかみ・たくろう)

1965年生まれ。大学在学中に中国へ留学。会社勤務にて貿易業務と海外駐在を経験。現在は独立して貿易仲介業を営む。初めて書いた『認命(レンミン)――さだめ』が第3回城山三郎経済小説大賞で最終候補に残り、選考委員から絶賛される。


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