[東京 6日 ロイター] - パナソニック<6752.T>が構造改革を加速させている。自前主義からの脱却を掲げ、外部企業との連携を強化。PMI(買収後の統合作業)や人事政策では新たな動きも見せ始めた。しかし、目に見える成果はまだ表れず、市場はパナソニックの成長ストーリーが本物かどうかを見極めようとしている。

<BtoBシフトの象徴>

「これまでパナソニックのPMIは『ああしろ、こうしろ』だった。今回は相手がしてもらいたいことをしようというところから入った」──。

パナソニック・アプライアンス社カンパニー戦略本部食品流通事業推進室の富永弘幸室長(取材当時、現コールドチェーン事業部上席主幹)がこう話すのは、1年前に15億4500万ドル(約1854億円)で買収した米業務用冷凍・冷蔵庫大手ハスマンのことだ。

ハスマンは1906年創業の専業メーカー。米国業務用冷凍・冷蔵庫市場ではヒル・フェニックスに次ぐ第2位のシェアを誇り、2015年の売上高は約11億ドル。従業員数は約6000人。

総合電機メーカーとして消費者と向き合うことが多かったパナソニックにとって、ハスマン買収は米電気自動車大手テスラ<TSLA.O>との協業やスペインの自動車部品大手フィコサへの出資とともにBtoBシフトの象徴のひとつでもある。

津賀一宏氏が社長に就任する直前の2012年3月期、パナソニックは世界的な景気低迷や円高の影響を受け、大幅な減収・減益決算にあえいでいた。大規模な構造改革を余儀なくされるなか、最終損失は7721億円と過去最大の赤字となり、まさに生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い込まれていた。

危機的な状況のなか、社長に就任した津賀氏が打ち出したのが、価格競争に陥りやすい消費者向け(BtoC)事業から長期にわたり安定した取引が見込める企業向け(BtoB)事業への転換だ。止血から成長へと舵をきった津賀社長は、各事業を高成長事業、安定成長事業、収益改善事業の3つに分類。市場成長率や業界平均の営業利益率が高い食品流通事業を高成長事業と位置付けた。

<ハスマンに口出しせず>

ハスマンに対してパナソニックは異例の措置をとった。そのひとつがブランド利用料の免除だ。通常、パナソニックは企業を買収して傘下に収めると、その企業はパナソニックのブランド利用料を支払わなければいけないが、ハスマンは支払っていない。

「これまでは買収するとすぐにパナソニックウェイというか、商標ややり方などをパナソニックに合わせることで相手が疲弊していく部分があったが、今回はそれをできるだけなくした」(富永室長)。送り込む社員も絞り込み、これまでと異なるPMIを実施した。

ハスマンは米国の寡占市場の中で安定した地位を築いており、買収時の営業利益率も7%とパナソニックよりも高い。独立性を保ちながらシナジーを追求した方が利益の上乗せが期待できるとの判断だ。

津賀一宏社長は1月、ロイターのインタビューで、米企業の経営手法にについて「利益をどのように作っていくのかで、すべての決定が行われている。日本メーカーは良い商品を作ればきっと儲かるという発想だが、BtoBは必ずしもそういうことではない。その意味で、学びも大きい」と語った。

<外部人材の登用相次ぐ>

2月28日、パナソニックが発表した人事が業界の注目を集めた。新任役員の欄に日本マイクロソフト会長(当時)の樋口泰行氏の名前があったからだ。

樋口氏は大学卒業後に松下電器産業に入社したが、約10年後に松下を飛び出し、米ハーバード大学経営大学院に留学。その後は日本ヒューレット・パッカードやダイエーなど様々な企業で経営の指揮を執った。松下幸之助氏の時代は外部の人材が経営幹部になることはあったが、最近は生え抜き以外が役員になることはほとんどなかった。樋口氏を呼び戻したのは、更なる改革に向けた津賀社長の強い意志の表れともいえる。

樋口氏だけではない。このところ外部人材の登用が相次いでいる。2016年1月にはメリルリンチ日本証券の調査部長だった片山栄一氏がM&A(企業合併・買収)担当の役員として入社。樋口氏と同じ4月1日付でSAPジャパンのバイスプレジデントチーフイノベーションオフィサー、馬場渉氏が北米子会社「パナソニックノースアメリカ」の副社長に就任した。

津賀社長は3月30日、社員向けに開いた経営方針説明会で、樋口氏の人事について、従来のパナソニックにはない、新しいチャレンジに向けたものだと強調した。

<非連続成長へ、蘇る松下の原点>

4月1日付で設立した「パナソニックベンチャーズ」も社外からベンチャーキャピタリストを招く。外部人材に託すのは、既存の事業領域にとらわれない、非連続の成長につながる可能性を秘めた事業の目利きだ。

パナソニック歴史文化コミュニケーション室企画課の中西雅子課長は「松下は衆知を集めて共存共栄をしてきた歴史。高橋荒太郎氏や中川懐春氏など、要所要所で外部から重要な人が入ってきて、大きくなってきた」と話す。高橋氏は朝日乾電池から松下に移り、松下幸之助氏を支えた大番頭だ。フィリップスとの提携交渉では辣腕(らつわん)を振るい、会長まで上り詰めた。中川氏も冷蔵庫や洗濯機事業を成長させ、副社長にまでなった功労者だ。

松下幸之助氏は「衆知を集める経営」を重視していた。「衆知を集める」は社内だけでなく、社外にも当てはまる。「モノづくりの業態は、エレクトロニクスは特にそうだが、何らかのエッセンス、レシピだけを買収しても、人がついてこないとだめ」(宮部義幸専務)。

津賀社長が掲げる自前主義からの脱却、オープンイノベーションは松下の原点に戻るということでもある。

<市場は利益成長見極めへ>

しかし、こうした変化の一方で不安も残る。津賀社長が特に力を入れている車載事業は厳しい競争にさらされており、期待通りの収益が上がるかどうかは不透明だ。

2015年度に1.3兆円だった車載事業の売上高を2018年度に2兆円に引き上げる計画だが、自動車メーカーの部品メーカーへのコスト要求は「生かさず殺さず」と言われるほど厳しい。自動車の電子化は進んでも、車体価格への転嫁には限界があり、思ったほど利益が出ないリスクも付きまとう。

伊藤好生専務(現副社長)はロイターの取材に対し「13年くらいから開発してきた成果が17年度中に現れて、18年度くらいから本格的に伸びていくというイメージだ」と先行きに自信を示した。津賀社長も「2兆円がピークではなく、目指すべきはその次の2.5兆円とか、そういうところに現場は目線を移しつつある」と述べ、2兆円はあくまで通過点に過ぎないと強調した。

だが、市場は種まきの成果がいつ表れるのか自信を持てずにいる。津賀社長は「2018年の2兆円に向けて9割の受注が進んでいる」と話すが、利益については明らかにしていない。

パナソニックは売上高10兆円の目標を掲げて、撤回に追い込まれた過去もある。市場では「車載やBtoBなどへの投資が中長期的な利益成長につながるか見極めたい」(国内証券アナリスト)との声が出ている。

(志田義寧 山崎牧子 編集:石田仁志)